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2003年12月29日(月) 二日酔い。●サウンドトラック(古川日出男)

●ひどい二日酔いで、1日人に非ずして過ごす。シャンパンとワイン、一人で2本分は飲んでいる。そのあとバーでジンを飲み始め、もう記憶は薄れており。しかも、一晩で3万以上使っていた。もう反省しきり。次のギャラまで倹約しよう。ああ。

●「サウンドトラック」、読み始めは、今年のナンバーワンを覆すかと思えたが、収束の仕方がどうも。印象で言えば、かつて「コインロッカベイビーズ」の読み始めに狂喜し、収束していくにつれ、あれあれ……と思った感じに似ている。面白い状況を呈示することは意外とできるのだ。問題はその状況から何をどう読み取るか、どう読み取っているかの表明とも言える展開の仕方だ。


2003年12月28日(日) 飲み過ぎ。

●恋人と行きつけの店の料理をどうしても味わいたく、女3人の忘年会で予約して行ってみる。
 恋人と一緒ではなくても、美味しい料理はやはり美味しく、食べたいだけ食べ、飲みたいだけ飲む。直帰しようとするわたしを女二人が渋谷に拉致して、女4人に増幅。また、酒を飲む。

 旨いものは、誰と食べても旨い。ただ、個人的に微かな隙間風が吹く。

●とりあえず仕事納め。4日の仕事はじめまで、とりあえず決められた外出仕事はない。ゆっくり読んで、ゆっくり仕事して、万全の状態で新年の仕事を迎えよう。


2003年12月27日(土) 妄想の東京に拉致されて。●TEN MINIUTES OLDER THE TRUMPET

●10時頃にはベッドに入ったというのに、眠ったのは午前6時。ずっと「サウンドトラック」を読み続けていた。読み続けるとは言っても、作者の妄想世界が強烈なので、時折休みをいれてベッドから起き出し、書いたりなんだりを差し挟みながら、だ。年末にとんでもない本を読み出してしまったなあ。まだ半分しか読んでいないけれど、半分までは間違いなく傑作。

●8時に起きるはずが、目が覚めたら13時過ぎ。……とんでもない寝坊をやらかした。仕事をひとつ飛ばす。まあ、顔つなぎに必要かと思われた程度のものだったので、さほど反省もせずに15時からの現場へ。場所が恵比寿だったので、ガーデンプレイスで映画を観て帰る。「10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス」
 これは時間をテーマに7人の監督が10分という時間枠で作ったオムニバス。この7人がすごい。
 ○アキ・カウリスマキ ○ビクトル・エリセ ○ヴェルナー・ヘルツォーク ○ジム・ジャームッシュ ○スパイク・リー ○ヴィム・ヴェンダース ○チェン・カイコー
 このところすっかり映画館から遠のいてしまったわたしだが、20代から30代前半にかけては、暇さえあれば映画を観ていた。そのころの記憶を彩る名前ばかりだ。特にビクトル・エリセのフィルムには長らくお目にかかれなかったので、柔らかな映像が銀幕に広がったときは、それだけで目が熱くなってきた。もちろん、あまりに美しかったから。

 一人一人の監督の、記憶すべきフィルムについて書きまくりたい気分でもあるが、今はどうも、「サウンドトラック」に心が拉致されているようだ。すぐにもまたページをめくりたい。
 実際、映画を見終わったあと、すぐにカフェに入り、映画について書き留めることもせず、本を開いた。

●明日は、外に出て行く仕事としては最後の日。女3人の忘年会も待っている。「サウンドトラック」の妄想の東京から離れて、現実の下北沢で美味しい料理に舌鼓をうち、甘い酒に身体を委ねよう。



※ニフティが提供しているココログというシステムを使って、新しいページを作ってみた。Etceteraより気軽に写真をアップしたり、日記で言及したことにリンクすることを集めたり、Web上で気になった記事をメモしたり、といった感じで作ってみようと思っている。
Another Ultramarine


2003年12月26日(金) 元気なこどもたち。

●昨夜、ほとんど眠れないままに、朝新幹線に乗り込む。車内で少しは寝ようと思っていたが、乗車時間を使って、打ち合わせの嵐。それに、最近ののぞみは、とっても速いし。

 名古屋の子供たちは、なぜか東京の子よりのびのびしていて、元気はつらつ。東京の子役たちは、児童劇団の馬鹿な大人たちに、判で押したような挨拶を教えられていて可哀相だったりするが(たとえばマクドナルドの売り子のように同じトーンで、「おはようございます」とか「よろしくお願いします」とか「ありがとうございました」とかマニュアル台詞をインプットされていて、ちっとも子供らしさがない!)、今日の子供たちは、それぞれがそれぞれで、なかなか面白かった。ついつい余計なことを質問してお話して、楽しんでしまう。年末にやきもきと過ごすのは可哀相なので、その場で結果を発表してきた。

●帰りの車内も、結局白熱する打ち合わせ。おかげで、まだ9時過ぎだというのに、もう眠い。ああ、もう本を持ってベッドへ入ってしまおうか?


2003年12月25日(木) 長いつきあいだの。一瞬の出会いだの。

●稽古場を抜けて、仲間の本番を見に日比谷へ。
 有楽町から日比谷公園に向けて、なんだかパリにも負けじの雰囲気のライトアップポイントが。しかも黒山の人だかり。急いでいたから通り過ぎてしまったけれど、何だったんだろうなあ。クリスマス、みんな楽しんだろうか?

●本番を見て、楽屋回りして、知り合いの俳優たちを激励。その後、20年来の仲間たちの楽屋で、ビールを囲む。知り合って20年たってしまったということに内心驚きつつ、馬鹿話と真面目な話を交互に織り交ぜ、ほんの15分ほどの飲み会。
 わたし、友だちって呼べる人なんて、ほんと、一握りしかいないような気がするけれど、仲間だったらいっぱいいる。様々な苦楽を共にしてきた、それぞれの弱みも強みも知り合った、仲間たち。奴らと過ごすのは、掛け値なく楽しい。しかし、仲間と認めるのも、わたしの場合男が多い。女たちはどうも面倒くさくって。イマイチさっぱりしてなくって。
 でも、今年唯一の忘年会は、女3人で開く(忘年会嫌いなので例年ほとんど参加しないのだ)。なぜかわたしを「姫」と呼んで慕う駆け出しプロデューサーS嬢と、今年一度も一緒に仕事しなかったM嬢。二人とも年下だけれど、なぜか妙に「女であること」を共有できる。わたしの行きつけイタリアンを予約して、ゆっくり食事とワインの予定。楽しい夜になりそうだ。

●明日はオーディションで名古屋へ。
 昨夜、テレビで新人タレントオーディションのドキュメンタリーをやっていて、ついつい最後まで見てしまったが、オーディションってのは、それがどんなレベルでどんな類のものであれ、ちょっとしたドラマになる。才能のある人であろうが、ない人であろうが、運のある人だろうが、ない人だろうが、夢見る権利は平等だ。正しく夢見ること、正しく欲望することが、ここでも一歩先行く秘訣だ。
 今や、自分が人をオーディションする立場になってしまった。そのたびに、夢見る人たちと、一瞬でも、人として真っ直ぐ向かい合おうと思う。
 明日は、子役のオーディションなので、ちょっと話はまた別。いきなり泣き出してしまう子もいたり、大きな傷をつけてしまう場合もあるので、半分は保母さんお母さんモードに入る。
 
●昨日からのベッドの友、古川日出男「サウンドトラック」、傑作の予感。このところ仕事と恋人のことでいっぱいいっぱいだったわたしを、いきなりぐぐっと読書の歓びに引き戻してくれそう。


2003年12月24日(水) たとえそれが幻想であっても。

●気がついたら、クリスマスイブだった。稽古場のケータリングにケーキが置いてあったり、帰り道、駅デパートの食品売り場から長い行列が外まではみ出していたり(ケーキと、洋総菜と、チキンの行列!)。みんな、クリスマスに思い入れがあると大変だなあ。
 大学に入って、東京で一人暮らしを始めてから、ずっとこの業界にいるものだから、どうも社会の暦とずれてわたしは過ごしている。土日もないし、盆休み正月休みも特にないし、ゴールデンウィークとかクリスマスも同じこと。若くてあんまり仕事がない時は、そういう時はずっとバイトしてたしなあ……。
 気が楽、といえばそう。でも。何やら世間から遠く離れているような寂しさを覚えなかったと言えば、嘘。若いときは、けっこう賑わいに背を向けてすねてた気がする。大体、何かを否定するってことは、何かに囚われているってことだから。
 それもなあ、この年になってみれば、ずいぶん楽になっちゃって。かつてのヴィヴィッドな世間への反発みたいなものが、懐かしかったりもする今日この頃。
 
●クリスマスイブだから、世間が穏やかで幸せかと言えば、ちーっともそんなことはなくって。なんだか満員電車の中はいつもより殺気だっていた気がする。降車客が降りきる前に、身体をがんがんぶつけて侵入してくる乗車客たち。鞄があたって、「ちっ!」と舌打ちしていく女の子。子供連れを前に眠ったふりする若いサラリーマン。
 余裕がないのが、年末。
 ついつい振り返ってしまうのが年末。
 自殺者続発の、年末。
 クリスマスである前に、今は年の瀬で、このはっきりしない、面倒な小さな国では、弱い人が余裕を持って暮らすことが難しい。
 クリスマスっていう、共同幻想の日くらいは、一人でも多くの人の胸にぽっと灯の点る瞬間があって欲しいと、願ったりもする。



2003年12月23日(火) 年末。●廃墟の歌声(ジェラルド・カーシュ)

●今年は仕事納めが28日と、例年より早い。仕事始めも4日と遅い。まあ、家でちょいこちょこ来年の仕事の準備は続けるが、まず喜ばしいことだ。去年は30日まで働いて、2日が仕事はじめだった。……素晴らしい。

●パリ話。
 別れの日。モンパルナスからエールフランスバスに乗って飛行場へ。わたしはかなりナーバスな状態。空港に着いて、また涙の嵐になるかと思っていたら、チェックインの段階で大問題。エールフランス側のミスによるオーバーブッキング。格安航空券のわたしは13時15分のフライトから23時半のフライトに移る可能性があるという。結果が出るまで1時間。彼は次の仕事に向かわねばならず、不安なまま涙の別れ。
 1時間後、待っていた結果は、予定通り乗れるし、しかもビジネスクラスに振り替えという嬉しい知らせ。
 貧乏人のわたしはもちろんエコノミーしか乗ったことがないから、別れでナーバスになった気持ちを少し晴らしてくれる快適な復路になった。
 エコノミーとここまで違うかというサービスの連続。厳選されたお酒と美味しいフランス料理。ゆとりのある座席は、足のむくまない心地よいリクライニング。見やすいモニターで2本の映画を鑑賞。一本は今年の春読んで大感動した「穴」の映画化。英語版でも十分に楽しめた。……12時間のフライトがあっという間。お金があると、人生ってある程度は快適になるものなのね。
 ちなみに、フライトの変更の憂き目にあった場合は、5万円相当の現金か、9万円相当のエールフランス旅行券がいただけたらしい。今思えば、それでもよかったかなあ。
 ……と、恋人と遠ざかり涙に暮れながらも、ちゃっかり人生は楽しんでいる。人間って、こういうものなのだね。

●今日は稽古場にいて、「欲望」ってものについてずっと考えていた。
 結局は、欲望の強い人間が、遠くに行ける。正しく欲望を持つ者が、多くを勝ち取る。それがどんな欲望であれ。欲望を持ち続けることで、先へ、先へと進んでいける。
 このところ、わたしは自分の欲望に対して、実に淡い対峙の仕方しかしてこなかった。何もかもが中途半端で。
 自分の欲望に正直であるということは、自分を認めつつ、正しく自己批判できるということでもある。
 来年は、来年は、と、心の蠢く、年末。
 


2003年12月22日(月) パリ、パリ、パリ。

●今日はこないだまでの仕事資料の整理とか、読みかけの本を読んだりとか、掃除したりとか、まあ、あれこれで終わった。
 一日中、次の仕事の電話を受けていたせいか、すっかりパリの哀しみから逃れ、もう涙も出なくなった。早いなあ、まったく。喜ばしいことでもあり、ちょっと寂しくもあり。(こういうモードの切り替えが早くなるのは、仕事好きなせい?)

●パリはクリスマス色に溢れていた。ギャラリーラファイエット(有名デパート)の電飾なんて、もう笑っちゃうほど。わたしたちは仕込みの大変さを思い、「ご苦労様」って思いながらしばし眺めた。とにかく、デパートの壁全体が電飾で覆われているんだもの。ウィンドウショッピングの末、ホテルの夜を楽しむためのシャンパンとチーズを購入。

 2日目に行ったシャルトルは、パリから急行で1時間余の美しい街。有名なノートルダム寺院のステンドグラスが素晴らしい。ここで出会った青の聖母子像は、近いうちにEtceteraのページで紹介するつもり。

 ルーブルで様々な出会いをし、モンパルナスからオペラまでセーヌを渡って何度か散歩し、オペラを2本観て。あっという間に3日間は終わり。

 どうせ3日間、たったの3日間、会えるのは3日に限られていたのだから、ご機嫌に過ごしてくればよかったのだが、ちっぽけなわたしはそうもいかない。再会の瞬間から、3日後の別れの瞬間に怯えていた。楽しくもあり、寂しくもあった3日間。

●明日から仕事再開。来年のための準備作業をひたすらやって、パリで頑張る彼に並ぼう。



※HP"Etcetera"に「ルーブルで出会った、もうひとりのマグダラのマリア」をアップ。


2003年12月21日(日) 不在の哀しみ。

●帰ってきた。
 帰ってきたら、ゆっくりパリのことでも書こうと思っていたが、恋人とまた離れてしまった寂しさ哀しさで、何も手につかず、呆然として過ごしている。

●わたしは一人が好きだ。一人でいるから寂しいのではない。
 いるべき人の不在が寂しい、哀しい。
 もちろん、その人が存在しなかったら、もっと寂しいのだが、今は、ついさっきまで自分のからだに感じていた温もりが失せて、とまどいを隠せない。
 突然、ほろほろと泣いてしまう。別れるときにいったんは止めた涙が、今も、思い出したようにはらはらとこぼれてくる。

 だからと言って、行かなきゃよかったなんて、そんなことは思わない。ただ、今は哀しくて、どうしようもない。
 
 しばらくしたら、その不在に耐えて、また一人で暮らし、一人で闘っていかなければいけないことは分かっている。今は、どうしようもなく、不在の哀しみと同居する。



2003年12月15日(月) 旅立ち前夜。

●仕事をして、歯医者にも行って、買い物もして、打ち合わせして、帰宅したのは23時。3時の今、ようやくほぼ荷造りを終えたところ。5時半には家を出て、成田エクスプレスに乗り込む。
 風邪の症状は続き、何やら微熱状態。このまま寝ずに準備を続けて、飛行機の中で熟睡できるだろう。
 余りにもバタバタしているので、パリに飛ぶのだという実感がない。着いてはじめて、なんだろう。それにしても、言葉の全くわからない国に行くというのはなんだか心細い。昨年の秋、仕事でパリに行ったが、劇場で日本語をしゃべっていれば事足りた。バカンスとなるとねえ……。恋人にひたすら頼る旅になりそう。これは旅の醍醐味半減だが、まあ、恋人に会うことが第一義なので、仕方ない。

●来年初頭の仕事があまりに大変そうなので、今から気がもめる。21日に帰国してから年末まで、すでに仕事がぎっしり詰まっている。年内の頑張りが来年の仕事はじめに影響してくるので、とにかくやれることはやろう。……なんて思いながら、今日一日は仕事したが、明日からはすっかり忘れるつもり。仕事を喚起させるものもスーツケースにはいれない。このバカンスが終わったら、来年の8月まで休みなく仕事しなきゃいけないんだもの。5日間くらいはいいじゃないか。

●旅に出る前は、ついつい財布の紐がゆるんでしまう。昨年ロシアに発つ前には、10万超えのバーバリのダウンコートを購入。今日は、オペラの夜のために、またまたバーバリのドレスだの、ジーンズだの、セーターだの購入。デパートを出た時はしきりに反省したが、これがまた旅の楽しみ。

 さて。
 荷詰めの続きをして、部屋をさくさく片づけて、シャワーを浴びて、出かけよう。眠気と闘い、わくわくしながら。


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