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2004年02月26日(木) |
復帰宣言。●デイヴィッド・コパフィールド(3) |
●旅公演の全てを終え、東京に戻ってきた。
後半、仕事に対する愛情が空転し、他者には裏切られ、仕事の時間以外はすっかり萎れて暮らしていたが、我が家に戻って、新たに仕切り直す気持ちが沸々と湧いてきた。
眠れぬ夜が続き、2時間睡眠の日が何日か続くと、ある日は10時間近く眠り続けるといった具合で、実に不健康だった。しかもホテルの枕が合わず、ひどい肩こりと共に帰ってきた。……心も体も取り戻さねばなあ。
でも、OFFは明日1日だけ。大事なのは、取り戻そうという気力。闘おうという心持ち。
●駄目な時に、読書はどれほどわたしを救ってくれることか。
何もやる気が起こらなかった時間を支えてくれたのは、ディケンズの小説。たまたま丸善で手に取った本に、またしても救われた。
2004年02月22日(日) |
ひとり。●デイヴィッド・コパフィールド(2) |
●日毎に、心が閉じていく感じ。
わたしが大変なことを察する人たちから、様々に誘いを受けるが、全て丁重にお断りして、仕事が終わったらひたすらに一人で居ることを選んでいる。ぐいぐいと、デイヴィッド・コパフィールドを読み進めている。
●こういう時、本当にわたしは友達というものを持たない人間だと思う。
いや、持ってはいるのだが、自分の抱える現在をわかってもらおうと、してはこなかった。面倒ややっかいを抱え込んだとき、話すべき相手は、母親と恋人しかいない。
一人は昨夏の婚約不履行騒動以来距離がある。一人は在パリで距離がある。よって、わたしはただっただ一人を欲する。
かたわだなあ、とも思うが、小さい頃から、こうだった。
自分の痛み辛さを人に話すのが嫌い、苦手だった。いつも一人でクリアしてから、ドアを開けて世界に出て行き、他者と向き合うのだ。
ここから派生することは、良きこともあり、悪しきこともあり。
40年以上自分とつきあって、ようやく、ようやく、わかってくることがある。
●気詰まりな事件は肥大化し、2日間ほど人心地のしない時間を過ごした。
ただただ仕事して、仕事が終われば物語の世界に逃避した。
ふと気がつけば、気詰まりな事件は雲散霧消している。
とある人物のわがままな気分が去ったとでも言うべきか。突然肥大した憎しみが、噴出しきって落ち着いた、とでも言うべきか。
他人の感情の面倒な部分を、仕事上すべて引き受けなければならなかった3日間だった。
●難儀な仕事を選んだもものだと思う反面、こんなにも他者の心をのぞける仕事もないと思う。何があっても愛するように、何があっても愛せるように、わたしは過ごしてきた。まだ完敗したことはない。
少なくとも仕事をする上では、わたしは他者を全面的に愛せないと思ったことはない。
●この地の滞在も、あと5日になった。東京暮らしが待ってる。そこに恋人が戻ってくるのは、相変わらず遠い日だけれど。
2004年02月19日(木) |
気詰まりを抱えて。●ミスティック・リバー ●デイヴィッド・コパフィールド(1) |
●昨日、仕事で大変な問題が持ち上がる。神経をとがらせ、気を遣い、すっかりくたくた。やりきれなくて後輩と飲みにいき、悪酔い。せっかくのOFFの半日を漫然と過ごす。
3時頃ようやくホテルを出て、ゆっくりとパスタの朝食。デイヴィッド・コパフィールドの一巻を読了。それからクリント・イーストウッドが撮った「ミスティック・リバー」を観る。ショーン・ペン、ティム・ロビンス、ケビン・ベーコン、この3人の演技が素晴らしい。が、映画が始まる直前に、またプロデューサーから気詰まりな電話を受けていたので、映画になかなか集中できず、ドラマに入り込めず、ただただ俳優の演技に魅入られて過ごした。
明日、気詰まりをより一層色濃くして現場へ赴く。歪んでしまった人間関係を元に戻すのは難しい。胃が痛くなってきた。
●うーむ、何やら風邪の初期症状。身体の節々が痛むのは、きっとそう。風邪をひいてしまったら絶対仕事にならないので(移す可能性がある以上、現場にいる資格がない)、意地でも治す。で、わたしの場合この意地ってやつでいつも治ってしまう。それが仕事中である限り。で、その余波で仕事が終わった途端、長い長い不調に見舞われるのは、しょっちゅうのこと。
「迷惑かけるねえ……」と、我が身体をねぎらってやりたい気分。
ということで、今日はお風呂にも入らず、本を抱いて早めにベッドへ入ろう。ディケンズが面白すぎるのが、ちと不安だけれど、仕事第一と心して。
●この旅仕事は、久々にホテル暮らしが心地よい。広々とした空間はやはり良いなあ。東京の我が家、11万3千円、と、高くはないが安くもない家賃を払っているのに、本当にウサギ小屋だもの。まったく暮らしにくい街ではある。でも、今わたしが自分の街はどこって訊かれたら、やっぱり東京と答えるだろう。生まれた地は、もうすでにわたしの心から遠い。
2004年02月16日(月) |
デイヴィッド・コパフィールドに呼ばれて。 |
●ドメスティックな読書が続いたので、海外の、思いっきり長篇の物語が読みたいと思っていたら、丸善で「デイヴィッド・コパフィールド」が声をかけてきた。世界の名作と呼ばれるもので読んでいない本の、なんと多いことか。このディケンズ作品もそうだ。かなりぶ厚い岩波文庫、全5巻。まさに求めていたタイプの作品で、くいくいっと読み進む。
このところの丸善通いで、かなりの散財。買うか買うまいか迷っていたエスプレッソマシーンくらいは、もう使ってしまった。でも、1月は忙しくってまったく読めない生活だったので、とりあえずご機嫌。
※Book Reviewに「外套」をアップ。
2004年02月15日(日) |
丸善へ日参。●ロンリー・ハーツ・キラー(星野智幸) |
●昼公演と夜公演の間には、必ず外出することにしている。気分転換を図らないと、とても新鮮な気持ちを持ち続けることが出来ないからだ。
お気に入りは、近くの丸善。わたしにはたまらなく楽しい場所。
なんたって、書籍売り場である。心に一個の檸檬を携えて出向く。黄色い手榴弾みたいな奴を。人知れず書棚に置いて店を出る。梶井基次郎「檸檬」フリークであるわたしは、そんな想像遊びをするだけで心が弾む。これで40過ぎなんだから笑ってしまうけれど。
もうひとつ。丸善には必ず文房具売り場がある。文房具ってやつはわたしにとっては仕事道具であると同時に玩具でもあるので、見始めたらきりがない。さんざん眺めた後で、何かひとつレジに持っていく。たとえシャープペンシル一本であっても、必要に迫られていない買い物ってのは楽しい。
さらには、必ず洋書売り場がある。これもまた心ときめくものだ。お気に入りの作家の未だ翻訳されていない作品をぱらぱらとめくったり、美しいビジュアル本をしばし眺めたりして、ニューヨークやロンドンのブックセンターに入り浸った時間を思い出す。キリル文字の本も置いてくれれば、モスクワ気分も味わえるのになあ。
とにかく、ほぼ毎日丸善まで散歩している。東京と違って売り場も広々としていて、いい。実にいい。
●星野智幸「ロンリー・ハーツ・キラー」を読了。同世代の作家が日本という国に抱く焦燥感が、これでもかと伝わってくる。深い共感を抱きながらの読書だった。それにしても、文学というのは、一つ事を言うために、これだけのお膳立てをし、エネルギーを注がねばならないのだなあ。このところの、「サウンドトラック」「シンセミア」などの良書をも思いだす。
2004年02月14日(土) |
この地の思い出。浮浪者まがいの女とミカンと深夜コンサート。 |
●今滞在中の街には、ちょっとした思い出がある。
酒によって夜の街をふらふらしていたとき知り合ったストリートミュージシャンと過ごした場所を、今日散歩していたときに通りかかり思い出す。3年半前のことだ。当時の日記を開いてみると……。
【10/2/Mon 浮浪者まがいの女とミカンと深夜コンサート】
ばたばたで開けた初日よりも2日目はリズムのある良い出来。これがこの地の千秋楽でもあるので、2日落ちもない。観客は1回目のカーテンコールからスタンディング。6回で止めてキャストを楽屋に戻した後も拍手が鳴りやまない。とにかく大盛況で幕を閉じたのでした。
終演後、残務を終えて、はじめてキャストの宴席に顔を出す。出した時にはもう席は盛り上がりの山を3つくらい越えていて、さすがのわたしもノリについていけない。ビールと日本酒をクイクイッとおとなしめに飲むと、酔いのまわるのの早いこと。
3時過ぎに先に席をたち、ホテルを目指した。目指して歩いたものの、方向感覚のないわたしは目的地に向かって歩くということが苦手。ふらふら夜の街を徘徊しているうち、自分がどこにいるかわからなくなる。仕方なくタクシーに乗ったら、新米の運転手さんで、2メーターほど走ったあげく、そのホテルは知らないと言う。納得のいかないままお金を払い、また知らない場所に降り立った。自棄になって再び歩き始めた時、男の人に呼び止められた。わたしの顔に「迷っています」と書いてあったのか。行き先を聞かれて、親切にも送ってくれると言う。とても悪い人には見えなかったので(わたしはこういう自分の勘を信じていて、間違った例しはない)話をしながら夜なお明るい街を歩き出す。
彼は近くの目抜き通りにあるロイヤルホスト前で毎夜歌い続けているストリートミュージシャンであるらしく、近くに止めてあった車からチラシなど持ってきてくれて自己紹介をしてくれる。
「歌を聴く?」と聞かれ、「聴きたい」と答える簡単な流れで、ホテルの前の公園に於いての深夜コンサートが始まった。コンビニで仕入れたアイスクリームだのジュースだのカップラーメンだのを囲んで。客はわたしのほかにもう一人。彼のファンであるらしい夜の飲食店勤め風の男の子。黒いズボンに白のカッターシャツ。胸ポケットには赤と黒のボールペン。前歯が一本抜けている。ファンが高じて彼の手伝いを仕事の後にしているらしく、「ピック!」「ハープ!」「(カップラーメンに)コンビニで湯いれてくれよ!」などといった言葉にかいがいしく応えている。彼がギターでイントロをかき鳴らし始めるたびに、「これ、好きなんすよ!」と、まだ子供っぽい目を輝かせる。
風貌からロックを想像していたら、曲は真っ直ぐなフォークロック。伸びのあるしゃがれ声に力があって、歌声にうるさいわたしが満足して聴き始めた。水商売の外人ばかりが目立つ薄汚れた公園だったけれど、彼が背負っていた噴水が時折水しぶきと音を立てて噴き出し、ちょっと悪くなかった。
何曲くらい演奏してくれたのだったか。途中で心地よく地べたに寝転がって聴くうち、浅い眠りに落ち、夢の中で、最近発売したCDのタイトルソングというのを聴いたのが最後だった。
コンサートが終わると、ホテルの場所が分からないままに歩いていたわたしのことを「さっき歩いてる姿、浮浪者みたいだったよ」と彼は言った。「眠ってない顔してるし、疲れた顔してるし、行き先知らずの歩き方してるし」とも。そして「そういう時はビタミンCをとった方がいいな」とコンビニに入り、青いミカンを買ってくれた。
ホテルに着いたのが6時半。11時にチェックアウトして劇場入り。バラシ終了を待って大阪に移動。今は梅田のホテルの一室で書いている。
明日からまた眠れない日々の始まり。繰り返しの毎日。
それでも、昨夜のようなちょっとした事件が生活に紛れ込んだりする。面白いものだ。
+++
●うーん、これは実に楽しい夜だった。あとで周りの人間に話したら、知らない男について行ったこととか、公園の地べたで平気で朝まで寝たこととか、さんざん馬鹿にされたけれど、そうかなあ……?
初秋の気持ちの良い夜に、気のいいシンガーと彼に憧れるヤンキー坊やの3人で、カップラーメンをすすりながら夜通しコンサート、そのまま夜空の下で眠り、朝日の下で目覚める。……最高じゃない!
彼はもうその場所では歌っていない。HPをのぞいてみたら、もうCDデビューして、地元のライブハウスとかラジオで活躍しているらしい。あの場所でまだ歌っていたら、訪ねていくのだけれどなあ……。
2004年02月12日(木) |
寝たり読んだりの気分転換。●外套(ゴーゴリ) |
●休み、休み、なんたって休みなんである。嬉しくって、ついついたくさん寝る。惰眠を貪る。朝ご飯を食べてから、カーテンを閉めて、本など読みながら、また眠る。なんたる幸せ。
●書評を書いては、ネット書店のbk1に転載しているが、この間、ある書店の編集者からメールが届いた。bk1の書評子の書評を集めたブックガイドを作るので、執筆してくれないか、とのこと。
何やら、安い原稿料で一冊作ってしまおうという体のよい企画だなあ、と思ったが、人に本を奨めることが滅法好きなわたしであるから、引き受けることにした。
一冊好きな本を選んで書いてくださいという要請に、わたしはゴーゴリの「外套」を選び、本日のお休み一日を使って、再読、執筆。天気のよい日にほぼ閉じこもり状態になってしまったが、いい気分転換になったような。
それにしても、「外套」は、読めば読むほどすごい小説。どれだけ再読しても新しい発見がある。もう何度読んだろう? もう何冊人にあげただろう? わたしの「外套」偏愛は、終わることがない。
●明日から、また新しいクール。ダブルキャスト交替の稽古もあったりして、ちょっと忙しくなる。それでもまあ、変化のない日々ではあるが、観客は毎日新奇な気持ちで集まってくることを心して、働こう。
●関係者全員参加、総勢130名のパーティーが、主演俳優の主催で開かれた。みんな元気すぎて怖いくらい。わたしは集まってくる若い奴らのノリノリぶりを眺めながら静かに飲んでいた。
それにしても、わたしはみんなに慕われていて、これも怖いくらい。愛情を持って働いていると、愛情が返ってくるものなんだなあ。若い女性に口々に憧れの女性と言われると、酒の上のことばとは言え、悪い気はしない。まあ、この先も頑張ってやってかなきゃなあって気になったりもする。
●このところ読む本読む本面白い。今日は星野智幸の新作の続きを読みながら眠ろう。なんたって、明日は1ヶ月ぶりのOFFだもの!