出張の多い彼は行く先々でお土産を買ってきてくれる。 日本酒であったり、お菓子であったり。
私はインドア派なこともあり、彼と会った時に聞く出張先などの話は まるで知らない異国の話を聞いているようである。 彼の肩あたりに私の目をつけて歩いて貰えたら楽しいであろうなぁと思う。
彼は私よりも随分と年下なのだが、様々な方向に対して感性が鋭い上に 博識で成熟度も高いので、年齢より幼く世間知らずな私とは、 まるで先生と生徒のような関係である。 無論、私が生徒である。 しかも全く成長しない、かなり出来の悪い生徒である。 困ったものだ。
過日。 仕事帰り、駅の改札を出たところでスーツ姿の男性が 夜空を見上げながらゆるゆると歩いているのが目に留まった。 何だろうと思ってふと見上げてみると、雲間から月が綺麗に顔を出していた。 十三夜の月であった。 気が付けばすっかり秋めいて、着るものも夏物から秋冬物に変わっている。
彼と会ったのは昨年の夏である。 私の誕生日が2回過ぎた。 彼の誕生日も2回過ぎた。 二人並んで夏の空を見上げることはもうない。 彼が東京にいるのも残り半年を切っている。
冷たい空の下、あと幾つの言葉を交わせるだろう。 一体幾つの言葉に蓋をすれば涙から許されるのだろう。
問える相手さえいない。
けれどこれが私のした選択である。
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