halu
不安にとらわれる。
それを抑えようと、
見ないようにしようと、
誤魔化そうと、
蓋をするために、
快楽を求めようとする。
でもそんな一方通行なセックスは成立なんてしなくて、
名前を呼ばれる。何度も問いかけられる。
「どうしたの?」
そのたびに、
私の心に亀裂が入る。
ひび割れだらけの心は、
内側の不安に圧迫されて、粉々になる。
あふれ出したモノは、
涙と叫び声と、
やり場なく暴れる躰。
興奮して息が出来なくて、
過呼吸みたいになって。
「落ち着いて」
そういわれて、
ビニール袋を口に当てられる。
同じテンポで背中を叩く。
涙とよだれとぐしゃぐしゃになった髪でさえぎられた視界。
声は叫び声と泣き声と笑い声が混ざり合って。
その間、
何を考えていたのか覚えていない。
たぶん、
何にも考えていない。
そこには「暴れる私」が居ただけだ。
すべてを覚えている。
記憶が飛ぶことはまずない。
暴れる自分を、
冷静に観察している自分が居る。
不安定な自分が居る。
喪失感に怯える自分が居る。
見捨てられる「かもしれない」ことに怯える自分が居る。
いちばんにはなれない自分に淋しくなる。
恋人の帰る家が此処ではないことに、
どうしようもなく哀しくなる自分が居る。
いつか。
こんな発作を繰り返す私は、
彼にとって重荷になるのだろう。
嫌いにはならないかもしれない。
けれど、負担は負担でしかなく、
負担はストレスになる。
私と一緒に居るよりも、
誰か、
ほかの誰かと居たほうが倖せだと知っている。
気を遣うこともなく発作を恐れることもなく、
いつも気楽に、笑っていられる。
そういう関係のほうが良いことなんてわかりきっている。
知っていて、私は彼を離さない。
そばに居て欲しいと願う。
いつか愛した人は、
最後に、私に言った。
「俺には君を支えるだけの器がなかった」
そんなもの、求めたつもりなんてなかった。
けれど、
壊れた私は、その人の負担でしかなかった。
苦しかった私を救ってくれたその人は、
結局、
私をもっと苦しくした。
もっと底に落とした。
それが、
繰り返されるような、
そんな気がする。
ずっと一緒に居ることが無理ならそれで構わない。
法の縛りも子どもも望まない。
私に、倖せを奪う権利なんてない。
ならばせめてそのときまで笑っていられればいい。
そう思うのに、
どうしてか、
私の心は痛みに軋む。
かつては死を望んだ。
今は、
本当の孤独を望んでいる。
それが死よりも苦痛を伴うこととわかっていて、
でも同時に、
何よりの強さだとも、わかっている。