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■ 寒空につながれて
その犬くんは、近寄ってきた女の子たちの「きゃっ、かわいいっ」という 黄色い声に脇目もふらず、ガラス張りのカフェの店内一心に見つめていた。 時折、「くーん、くーん」と切なそうに鼻をならす。
そのけなげな姿が、見る人の心を揺らすのか、通りがかる人たちは一様に 犬くんの側で立ち止まる。それでも、犬くんの黒いふたつの眼は、じっと 店内を見つめている。鼻先を、つめたいガラス戸に押し付けながら。
別にあたたかい店内が羨ましいわけでも、熱い紅茶が飲みたいわけでもない だろう。ご主人さまと、ひと時たりとも離れたくない、そういう想いが伝わ ってきた。バウリンガルとか使ったわけではないですが。
私も向かいの花屋でじっと待ってみた。 寒空につながれた犬くんが可哀想というわけではなく、ひとりぬくぬくと 店内でお茶をすする主人を、ひと目見てやろうという魂胆を持っていた わけでもなく、単純な好奇心として。見てみたたかったのだ。 本当に恋しいひとが出てきたときの、両者の反応を。
間もなくして主人(若い青年だった)が、テイクアウト用のカップを片手に 出てきた。その瞬間、私は想像する。きっと犬くんは、興奮の乱舞を舞う。 ちぎれんばかりに尻尾を振り、くるくる回り、ご主人さまの足にからみつく。 それはもう、全身で喜びを表現するだろうと期待した。
しかし、ご主人さまは、手のひらで軽く宙を押し付ける。 すると、飛び上がろうと構えていた犬くんは、従順にお座りをした。じっと ご主人さまの目を見ながら。「よしっ、かえろう」ご主人さまが、繋いでいた リードを解いた。犬くんは、ご主人さまの左側にぴったりと寄り添い歩く。
私はちょっとがっかりする。 なんだ、あんなに待ち焦がれていたのだから、もっと喜ばせてあげればいいのに。 いい子にしていたのだから、いっぱい甘えさせてあげればいいのに、と。 ちょっと恨めしい気持ちでふたりを見送る。ふと見やると、犬くんはぶんぶん と尻尾を振りながら嬉しそうに歩いていた。
一連の光景を目撃して、ちょっと違う想像をしておりました。ヒントは「再会」
2004年01月25日(日)
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