夏祭り


歩き難い浴衣なんて厭だと言って
飛び出していく姪の背中を見送ったら
遠い夏の日の記憶が
思い出の引出しからひょっこり顔を出した



集合場所の
鳥居の小さな神社には
色鮮やかな浴衣を着た
教室の匂いのしない同級生と

目が合うたびにひっそりと微笑む
姿勢の正しい先輩が

夕立に濡れた傘を弄びながら待っていた


動き難いと何度も小声で愚痴る
友人の言葉が耳を掠めるその度に
私は振りかえって貴方を見ていた


「着なかったんだ。」

右隣では友人が夢中で金魚をすくっていた

同じ歩幅で歩きたくて
しまい直した浴衣の模様を
鮮やかに思い描きながら
ほんの少しだけ後悔した

身体の左側だけがとても熱くなって
窮屈だから と ぶっきらぼうに答えた私に

貴方は

気持ちのシャッター下りるような
笑顔を向けた
姿勢の正しい貴方の肩越しに
オレンジ色の打ち上げ花火

貴方の

漂う視線が 
肩から腕までの真っ直ぐな線が
必ず1度躊躇って発言する唇が

今でも私を
あの日に帰してくれる

今でも私を
熱い想いで包む



あの娘がもし
来年も浴衣を嫌がったら
今度は無理にでも
着させてしまおうかな



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