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■ 追放されし楽園へ(お題:28)
※「毒を孕んだ林檎の夢」番外編 ↑タイトルクリックで、小説に飛べます(別窓)
追放されし楽園へ
「会いたい」その言葉を紡ぐのは、とても怖くて、いつも咽喉の途中でつかえた。 我が侭を言って嫌われでもしたら、きっと私は生きていけないから。だからいつも貴方の腕の中で、快楽に溺れながら涙を流し、心の痛みに耐えていた。 だって、どんなに叫んでも、この痛みが貴方に伝わることはない 痛みも切なさも全て快楽に変えて欲しいと願うから。
貴方に触れることなく一週間が過ぎた。 たった一週間なのに、私は平静を保つことさえ難しい。あの温もりに触れないだけで、私の心は酷く不安定になる。 平日で、仕事に行かなければいけないと言うのに、全くやる気が出ない。何だかもう、どうでも良くなって、無断欠勤を決め込んだ。 咽喉が渇き、水を飲みにキッチンへと足を向ければ、目に付く痛いほどの紅。昨日、隣の部屋の住人にお裾分けとの名目で、篭いっぱいに貰った林檎。 毒々しいその色に、御伽噺が頭に過ぎる。 (ああ、これが毒林檎ならば、王子様が助けてくれるだろうか?) なんて、馬鹿馬鹿しい考え。あまりにも少女趣味な思考を嘲り笑う。 第一、彼の人が己の王子様だなんて自意識過剰も良いところだ。 人が楽園を追放される原因となったとも言われる果実。ならば、私がこれを食べれば、彼の人の下を追放されるのだろうか? (それは良いかもしれない) 王子様、なんて考えるより余程現実的だ。 そんなことを考えながら、一口齧る。口内に広がる甘酸っぱい香り。 一向に訪れる気配を見せない闇に、何を馬鹿げたことを、と再び自嘲する。 今日の己がおかしいことなんて、目覚めた時から分かってる。 そう、おかしい。ただ一口紅い実を齧っただけで、彼の人に電話をして見ようなんて気が起きるなんて。 でも、心のどこかで分かってる。これは賭けだ。
携帯ではなく、自宅の電話の番号を押す。 数回の呼び鈴。もう、十回目のコールが鳴る。 (賭けに負けた、私は楽園を追放されたのだ) そう思った瞬間、 『もしもし』 久し振りに聞いた愛しい声。 どこか慌てた感じを受ける声。 「起こした?」 心の中に広がる歓喜。 今なら言えると、はっきりと分かる。やはり、あの果実のお陰だろうか。 「会いたい」 初めて口に出せた言葉。 最初で最後かもしれない言葉。 (会いに行こう) あの真っ赤な林檎を持って。愛しい人に。 毒が付いてるか、なんて私には分からないけれど。付いていたとしても、それは甘美な毒。
愛しい愛しい私の楽園、それは貴方の腕の中 だから、そこで死ねたなら、それはどんなに幸せなことか さあ、楽園へ行こう 一度は追放されし楽園へ
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「毒を孕んだ林檎の夢」番外編 28.どんなに叫んでも、この痛みが貴方に伝わることはない 痛みも切なさも全て快楽に変えて欲しいと願う を使用。本編の彼女サイド。 お題の中で一番薄暗いと思われる話……。 微妙に、R指定すべきかと悩んだんですが、あれくらい大丈夫でしょう。 前回が会話ばっかりだったのに、今回はほぼ独白。
お題7つ目……一番長いお題は終わった。
2004年02月24日(火)
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