くじら浜
 夢使い







公園とベンチ 3   2006年09月27日(水)

離れたふたつのベンチの後ろには、それぞれに大きな樹が一本づつ立っていた。秋の少し冷たい風に吹かれて、ふたつの樹は上の枝葉がまるで磁石が引かれ合うかのように、揺れてはくっつき、また揺れては離れ、そのざわめきがベンチにも聞えてきた。

ぼくと彼女はいつしかひとつのベンチに座るようになっていた。

ぼくたちは毎日いろんなことを喋った。
彼女の家はそんなに裕福ではなかった。もう随分前に父親を亡くし、今は母親と弟と三人で暮らしていること。中学の部活では空手をやっていること。彼女の空手は相当なものらしく、地区の大会ではいつも上位に食い込み、全国大会にも何度か出ているということ。そして家で猫を一匹飼っていること。そんなようなことを彼女は一生懸命ぼくに話してくれた。
そしてひとしきり話が終るとふっと下をうつむき、またあの寂しげな表情をみせた。

ぼくはとっさに彼女の手を握っていた。
彼女ははっと驚いたように顔を上げぼくを見た。そして今にも泣き出しそうな顔でぼくの掌を握りかえしてきた。強く握りかえしてきた。ぼくは彼女を守りたいと思った。強く思った。

ひとをすきになるということはこういうことなのだろう

「ふたりは付き合ってるの?」と、唐突に彼女が聞いてきた。

「うん、たぶん」
「でもその前にまだ告白されてない」と彼女は笑った。

そしてぼくは初めて彼女に告白した。
彼女は少女のような顔で微笑みうなずいた。

ベンチの後ろの大きな樹に夕陽があたっていた。

  つづく。










公園とベンチ 2   2006年09月26日(火)

いつもの公園にその日ぼくはひとりで来ていた。

公園にはいつものように彼女たち3人が、砂場の右側のベンチに座っていた。ぼくを見て何やらヒソヒソ話をしているようだったが、かまわずぼくは離れた左のベンチに腰掛けた。すると他のふたりは彼女だけを残しどこかに行ってしまった。

砂場とスベリ台をはさみ、少し離れた距離を置いてぼくと彼女は互いに照れ笑いをするのが精一杯だった。

こんな時間には珍しく、砂場では小さな女の子が小犬とじゃれ合っている。その様子をふたりはただ黙って見ながら、時々砂場越しに顔を見合わせ同じタイミングで笑い合った。そんなふたりだけの共有した時間が永遠に続けばいいとさえぼくは思った。

その日の夕焼けは一段とオレンジが濃く、砂場にはスベリ台の影が長く映っていた。夏の終わりを知らせる蝉の声が公園に木魂していた。

砂場の女の子はいつの間にかいなくなり、またふたりきりになった。

「明日もくる?」
「うん」

ふたりは初めて言葉を交わした。


  つづく。







公園とベンチ   2006年09月25日(月)

高校3年生の時、中学3年生の女の子を好きになった。

学校帰りにぼくが仲間とよく行くその公園は、川沿いの舗道をまっすぐに行き、橋を渡った向こう側の銭湯の横にあった。学校からさほど離れているわけでもないが、通学路から少しそれていた為、あまり人気が少なく目立たない公園だった。いわばぼくらの隠れ処的な場所だった。

そんな公園に時々来ていたのがその子たちだった。3人の中ではあまり目立たないその子は、よくテレビに出ているYの初期の頃の顔にどことなく似ていて、少し陰を感じる女の子だった。でも、そう感じるのはほんの一瞬で、友達と笑顔で喋る姿は無垢な少女のようだった。

その落差が次第に気になりはじめ、仲間と話しをしている最中もぼくはその子に意識が向いていた。人気の少ないその公園に来るのは、いつもぼくたち3人と彼女ら3人だけで、その中でぼくの意識だけがその子に飛んでいた。

そんなぼくの視線に気がついたのか、一瞬ふたりの目と目が合った。その瞬間、その子の表情はこわばり、無垢な少女からまた少し陰を含んだ寂しげな女の子になった。その彼女の顔が深く強くぼくの胸に突き刺さり、でも確実に彼女に惹かれていくぼくは、すぐに彼女から視線をそらした。

公園には木製の古びたベンチがふたつ、少し離れた位置にあった。そのふたつのベンチの間には、そんには広くない砂場と小さなスベリ台があった。

いつまでも続くと信じていた夏は少しづつ終焉に近づき、西に焼けた空の色は確かに8月の色とは変わっていた。その夕陽が彼女の横顔と座ったベンチをいつまでも照らしていた。


  つづく。









追いかけて   2006年09月24日(日)

走り去る雨を
どこまでも追いかけていた

遠い記憶の欠片に打たれて

忘れないことが愛情ではなく
忘れ去ることが愛情








風の匂い   2006年09月23日(土)

この公園は
いつも風が吹いている

この公園の
風の匂いを嗅ぐのが好きだ










鳥取砂丘   2006年09月21日(木)

二十代の頃、仕事をさぼって鳥取砂丘に行ったことがある。

今でもそうなのだが、何かに行き詰まったりふとした事でふらっと・・
放浪癖と言ったら大袈裟だけど、
ふらりと何処かに行ってしまう事がある。
で、鳥取砂丘。
なぜ鳥取砂丘だったのか
あの時はただむしょうに、日本海に広がる見渡すかぎりの砂の世界が見たかったのだ。
そこに行くと何かが変わる、変われそうな気がする
そう思ったのかもしれない。

行ってきました。

道すがら潮の香りがしてきました。
砂が風に吹かれる音も聞えてきます。

着きました。


な・なんだこれは・・


イメージとはあまりにもかけ離れてました。
砂の上には草が生え
砂は白くなく
海はすぐ目の前にあって

ここは砂漠なんかじゃないぞおー
と叫びたくなって、
はい、そのとき気付きました。
そうなんです
ここは鳥取砂丘なのです。
「砂漠」ではなくあくまでも「砂丘」なのです。

砂漠をイメージしてた自分がバカだったのか・・
それとも鳥取砂丘がクソ砂丘だったのか・
・・鳥取の方すみません


まあ人生なんてそんななもんだとその時は妙に悟った気になって・・次の日なにくわぬ顔で会社に行きました。

変わったといえば確かにに変わったかな、
あのクソ砂丘のおかげで。








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