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ケティの見た空 2 2007年10月01日(月)
行き交う観光客の横では裸足の少年が物乞いをしていた。痩せこけたのら犬はだらしなく道端に寝そべり、その姿を哀れむように高級なカメラに収める観光客。みやげ屋では、いくらもしない手作りの刺繍を面白半分に値切り、そして物乞いの少年に誇らし気にコインをわたす。 大きく伸びをして空を仰いだ犬の上には、相変わらず曇った空があった。コインをもらった少年は、その空を見ることもなく駆けていった。
この国は貧しかった。 貧しさは人を蝕み社会を蝕む。
灰色の空に隠された太陽は見ることはできない。この国の人たちにとっての太陽は、ここでの生活であり家族であり母であり妹であることをケティは知っていた。異国の観光客には決して降り注がない灰色の奥の太陽。しかしケティもこの国の人たちも、本当の太陽がどこにあるかわかっていた。
お母さんが現場へ出ているあいだは、観光客でにぎわうダンバール広場がケティの仕事場だった。 いつものように裸足で妹を背負いながら辺りを見渡したケティは、カメラを持ったひとりの青年を見付けニッコリ微笑んだ。しきりにカメラを指差す少女に、青年は察したのか「OK,OK」と言いシャッターを切った。カメラの前でケティは最高の笑顔を見せる。裸足で妹をおんぶする貧しい国の少女、それとは対照的な屈託のない笑顔。青年を刺激するには充分すぎる被写体だった。 そして、3回シャッターを切って満足気な青年に、ケティはおもむろに手のひらを差し出して、またニッコリ微笑んだ。青年は一瞬とまどったが、悲しそうに少女を見つめてコインを渡し去っていった。
これが ケティの仕事だった。
これが ケティの生きる術だった。
仕事を終えたあとケティはいつも空を仰ぐ。 雲った灰色の空のその奥に隠れている太陽を探す。 その空はあまりにも低く あまりにも狭く おんぶしている背中だけが暖かかった。
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