くじら浜
 夢使い







染まる空   2012年06月02日(土)

久しぶりに空が焼けた

見上げる少年の

右頬もまっかに焼けた

きのうタロが死んだ

タロもまっかに焼けるのかな

少年の

左もだんだん焼けた









安千代   2012年05月27日(日)

ぼくはその人のことを知らなかったが

あの日

時空を超えてきた声が

その人の名前を運んできた


たどりついた宇宙には

耕した土があり

歴史を食らう虫たちが

明日に飛んでいく

まごうことなきその道は

またその宇宙へと繋がるのか










血の行方   2012年05月21日(月)

赤い血はかたまっていく

流れるところを塞きとめられて

いつから痛みを忘れたのか
もう思い出すこともしないで

赤い血は流れることなく
かたまっていく








懲りない奴   2012年05月20日(日)

よほど君は腹をすかせていたのだろう

すべてを食べつくしたあとにまたポツリと呟いた

ああ、腹へった









一枚の絵   2012年05月19日(土)

喧騒とした夜が明けてゆく

ピカソから抜けでたような継ぎはぎだらけの街が
一本の光を受けた瞬間
大道芸人の手品にかかったように
あっという間に一定の秩序が動き出す

ガラクタを詰め込んだ魔法の箱は
午前4時半に来た清掃車に全部中身をはきだされ
そのあとに水をまく車によってタバコの吸殻一本さえも残さず
容赦なくその痕跡を消されてゆく
欲望のしたたる染みは空腹のカラスたちが食べつくした

その一本の侵入者によって敷かれた新たな秩序が
真っ白になったキャンパスに新しい絵を描き始め
すずめがチュンチュン鳴き始めたら
そろそろ朝の風景が完成するのだろう









井戸の中③   2012年05月16日(水)

抛った石がゆっくりおちていく

だんだんと加速をつけながら
それでもゆっくりとしずかにおちていく

どこまでもおちていく

その黒くて小さな石を
ぼくとナナは窒息すると思うほど。











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