星降る鍵を探して
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2003年09月05日(金) 星降る鍵を探して4-2-5

 梨花が圭太と待ち合わせをしたという10階までは、もうあとほんの少しだ。
 流歌が少し先へ行ったので、何となく話が途切れる。剛は流歌の後姿を見ながら、ぼんやりと考えていた。何故、圭太のところに、敵から電話が来るのだろう?
『警告だ。ひとり、見つけたぞ』と、言ったって?
 なんともふざけた言い方ではないか。
 その言葉からは、何か、揶揄するような色が感じられる。単なる敵が投げてよこす言葉とは思えない。
 ――あの男か……?
 と天啓のようにそのことに思い至ったのは、剛の嗅覚が『あの男』に関してだけ研ぎ澄まされていたからなのかもしれない。あの男、桜井は、流歌に『先生』と呼ばれていた。既知の仲だったということだ。ということは兄である圭太と桜井も既知であった可能性はあるし、なにより揶揄するような、もっと端的に言えばなぶるような、言葉をかけそうな男だった。これは偏見ではない、と思う。
 先を行く流歌が踊り場を回り、刹那、その姿が見えなくなる。一瞬たりとも流歌から目を離したくなかった剛は無意識のうちに足を早めたが、
「清水さん」
 飯田梨花が急に振り返ったので、驚いて足を止めた。飯田梨花は何か険しさの混じった真剣な顔をしていた。色素の薄いふわふわの髪が梨花の動きにあわせて頬の辺りで揺れ、アーモンド型のややつり上がった目に見据えられて剛は息を飲んだ。こやつももしかしたらかなりの麗人なのではないか、とその時初めて気がついた。
「さっき、流歌と何を話していたんですか?」
 流歌に絶対聞こえないように、梨花がそう囁いてくる。
「さっき?」
「あたしが合流する前です」
 合流する前――と脳裏を探るまでもなく、先ほど、駆け寄ってきたときの梨花を思い出した。あのとき流歌を見て一瞬顔をほころばせた梨花は、しかし何か気にかかるものでも見たかのように駆け寄ってきて、そして流歌に尋ねたのだ。『どうしたの』。ひどく心配そうな声音で。
 流歌はただ微笑んでいただけだと言うのに。
「あ、お兄ちゃん!」
 下で流歌の明るい声が聞こえる。圭太が下で待っていたのだろう。ぱたぱたと駆け寄る音と、圭太の低い声がそれに応えた。重ねてこちらに何か言おうとしていた梨花の言葉を遮るように、流歌の明るい声が聞こえる。
「梨花ー、清水さーん、早くー」
「待って、今行くー」
 梨花はそう返事をして、こちらに視線を戻した。一瞬だけ何か考えるような目をしてから、苦笑を浮かべる。
「ごめんなさい、何でもないんです。ちょっと心配になっただけ」
「心配……?」
 思わず聞き返す、と、梨花は頷いた。
「あのね、さっき……流歌が、泣いてるように見えたから。それだけです」
 見間違いだといいんですけど。そう呟きながら前に視線を戻す。最後に見えた梨花の横顔は、ひどく、心配そうな色をしていた。

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はーようやく合流しました……
視点をぐりぐり変える書き方は、後で合流したときの会話にひどく苦労する、ということに今更気がつきました。ぎゃふん。


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