星降る鍵を探して
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2003年09月28日(日) |
星降る鍵を探して4-4-6 |
しばらく後―― マイキがようやくハンカチから顔を上げた時、その不思議な大男は、散らばった膨大な書類をかき集めているところだった。 マイキはすぐ目の前に落ちていた書類を覗き込んだ。不思議な図形がびっしりと、所狭しと書き込まれたその書類は、マイキの目には単なる悪戯描きにしか見えなかった。図形の脇に走り書きされた字は、長津田の部屋の惨状を知るものが見たら驚くほどに几帳面にかっきりと書かれている。だが数式や外来の文字がほとんどなので、意味は全く分からない。 マイキが泣きやんでいるのに気づいた長津田は、ホッとしたように顔を上げた。 人相はそれほど良いとは言えないのに、とても人の良さそうな表情だった。しかし顔を上げた拍子に、せっかく集めた書類が再び床に散乱した。ばさばさばさっ、と、渇いた音がする。 沈黙が流れた。 マイキはきょとんとして長津田を見つめた。この人はいったい何をしているのだろう、と彼女は思っていた。遊んでいるのだろうか。いや、それにしては長津田の表情はひどく深刻だ。 「……て、手伝ってくれるかな」 言われて、マイキは頷いた。こんなすがるような目で見られては、拒否など出来るはずがない。 書類の右はじには二つ並んだ穴が開いている。ファイルを開いてみると、その穴がちょうど入りそうな器具が右はじにある。ここにあの穴を入れればちゃんと揃いそうだ。 しばらくかさかさと書類を集める音が響いた。マイキも、そういうファイルを扱うのは初めての経験であり、初めの内はなかなか上手く行かなかった。それでも彼女が二冊のファイルを作り終えたとき、長津田は一冊のファイルをようやく揃え終え、慎重な顔つきで留め具と格闘しているところだった。マイキは思わずじっと見守ってしまった。長津田の無骨な巨大な手は全くそういう作業には向いていないらしい。力任せにはめようとするものだから、ぎしぎしと厭な音がしている。 しかし何とか壊すこともなく留め具が無事にはまり、二人はほっと息をついた。 「ありがとう。器用だね、助かったよ」 長津田にそう言われて、マイキは微笑んだ。そんなことを言われたのは、生まれて初めてだった。
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「それで、どこへ行こうとしてたのかな」 しばらく後、二人は並んで歩いていた。長津田がファイルを二冊持ち、少女が一冊持っていた。先ほどから長津田はしきりと少女に話しかけているのだが、この風変わりな少女は返事をしなかった。一体どこの何者なのだろうか、と長津田は思う。血の気がないのかと思うほどに白い肌と、そこだけが不思議に赤い唇、そして驚くほどに整った顔立ちが、少女を人形のように見せていた。普段ならこんな風変わりな少女、しかもこちらの問いかけに全く答えようとしないような子に、かか煩うようなことは――特に今は勤務中だ――しないのだが、長いつややかな黒髪が、珠子を思い起こさせるのである。そしてこの子は泣いていた。泣きながら走っていたのだ。珠子によく似た風貌で、あんな風に泣かないで欲しいものだ。背筋がむずがゆくなって来るではないか。 「誰か、探してるのか?」
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2日も休みました。申し訳ありませんでした……! 長津田さんとマイキだと、会話が弾まなくて困ります。物理的に不可能だ。早くあれとかこれとか書きたいのに!(どれだ)
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