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No-Mark Stall *




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リズと従妹とその従者。 | 2008年06月17日(火)
リズはふわふわとした笑顔を浮かべるこの従妹が少々苦手だった。
けして嫌いなわけではない。卑屈な態度の割に傲慢な思い上がりを抱いているはとこに比べれば、素直で無邪気な彼女はずっと好ましい存在だ。
「リズ、リズ。あやとりをしましょう」
はっとするような緋色の巻き髪を揺らして従妹は笑う。
「ベティ。あなたもう十九でしょう。お祖父さまも亡くなられた今、後を継ぐのはあなたなんだから、少しはしっかりしないと」
「どうして?」
「いい加減現実を見なさい。あなたは十の小娘じゃなくて、十九の女なのよ」
「ねえ、あやとりをしましょうよ。新しいのを教えてもらったのよ、すごく難しかったの、頑張って覚えたんだから」
ベティはリズの諫言を耳にも入れず、叱ろうとする彼女の腕を取って歩き出す。
もうすぐ二十になろうかという従妹は、十年近く前に凄惨な事件に遭遇して以来精神に支障をきたしていた。現実を受け入れられない心を夢に遊ばせ、心の時間を止めたまま、ベティは夢と現の狭間に佇んでいる。
その幼い精神と美しく成熟した肉体の不均衡がもたらす危うく抗いがたい魅力に、彼女の姉代わりの存在であるリズは不安を感じていた。
「ベティ。辛いのは分かるわ。でも、もう十年経つわ。あなたはこのままじゃいけないのよ」
「何か辛いの? リズ、嫌なことがあったの?」
くるりと振り返り、ベティはじっとリズを見つめる。心配そうに揺れる瞳に、叶わないわとばかりに彼女は溜息を付いた。わずかばかり身長の低い彼女の髪をそっと撫でる。
「私は別に辛くないわ。あなたのことを話しているのよ」
「わたし? わたしは辛くないわ。お父さまたちがずっとお出かけしているのは寂しいけれど、でも、ヴィクターがいるもの」
髪に触れるリズの手を取り、優しく握り返してベティが頷く。
リズはその名前を聞いて密やかに眉をひそめた。ベティの夢の番人、彼女が壊れてしまってからずっと、傍に付いて離れない忠実な使用人であるヴィクターを、しかしリズはどうにも信用する気になれないのだった。彼がベティを見る目はとても優しいし、彼はベティのためによく心を砕いている。けれどベティからそらされることのない瞳に時折昏いものが過ぎるのをリズは知っていた。あの男は危険だ。

「お嬢さま」
突然背後から掛けられた低い声に、リズはびくりと肩を揺らす。彼女と向かい合っていたベティがその肩越しに声の主を見つけて破顔した。
「あら、ヴィクター。どうしたの?」
「もうすぐお茶の時間ですがいかがなさいますか」
「ええ、もうそんな時間なの? じゃあ、あやとりの前にお茶にしましょう。ね、いいでしょう、リズ?」
「え、あ、ええ、いいわよ」
歩み寄ってきたヴィクターがごく自然な動作でリズの手からベティの指を抜き取り、彼女を階下に導いていく。ただの従僕には許されない親密すぎる態度を取る彼とされるがままの彼女をリズは呆然と見送りかけ、慌ててふたりの後を追った。

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最近文章が上手く整理できてないなーと感じます。ちょっと書かないでいるとただでさえ高くない能力ががくんと下がる。
さすがにミステリもどきにはプロット切らないといけないだろうと思って頑張っているのですがどうも誰の視点によって話を進めるかが定まらない。
written by MitukiHome
since 2002.03.30