おにいちゃんの住む町は ちょうどその頃、桜が満開だった。 『とっておきの場所』だと言って連れて来られたのは 市街地から少し離れた所にある章陵。 とても静かで、 ここがどこであるかを感じさせないくらい 外界と切り離された空間だった。 「考え事があると、たまにふらりと写真を撮りに来たくなるんだ」 普段は誰に対しても笑顔を絶やさず、やさしく、そつなく、 何事もうまくいっているかのように見せているのに、 時折私だけに、寂しそうな顔を見せる。 多くは語ろうとしないが、 私もそれを敏感に察知出来るようになったから たぶんこうして今も彼の隣に居られるのだろう。 そして、これからも。 いつになったら、彼の傷は癒えるのだろう。 そして、それを私が癒すことはできるのだろうか。 私の気持ちを掻き乱していくように 桜が舞い散っていった。
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