会う約束
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K先輩に電話をかけました。 お母様が出て、「まだ帰って来てないのよ」と言われました。
結局、多田さんに会うかどうか決められないまま朝になり、 会う約束をした事を友達にも言わないまま、放課後になりました。
放課後になって、隣のクラスのRのところに行き、多田さんと約束をした事を話してみました。 Rは、軽い調子で「いいじゃん、遊んでもらえば」とだけ答えました。 その言葉を聞いても私の中で迷いが消える事はありませんでした。 でも、好奇心に似た感情の方が強くなっていたのも事実でした。
掃除当番のRが終るのを待つ間、私は多田さんに学校の公衆電話から電話をかけることにしました。
やっぱり止めよう。
受話器を置こうと思った4コール目で、ガチャリと音がしてダルそうな声の多田さんが電話に出ました。
「もしもし」
「おお、今どこ?」
昨日初めて電話で少し話しただけなのに、多田さんは私の声がすぐに分かったようでした。
「まだ学校です」
「もう、来る?」
「え?どこに行けばいいんですか?」
多田さんは、学校から自分の家までの道を教えてくれました。
電話を切ると、Rの教室に戻り会う事になったと話しました。 ちょうどRも掃除が終って帰れるということで、一緒に途中まで行くことになりました。
「やっぱ止めようかなぁ」
思わず、口から出てしまいました。
「行っちゃえば、きっとそれで楽しいと思うよ」
Rにそう言われ、そうかもしれないと単純に思うことにしました。 Rが多田さんの家まで一緒に来てくれるというので、その言葉に甘えることにしました。 教えられた通り、駅とは反対方向の道を曲がりました。 そのずっと先に、見覚えのある白い車が止まっていました。
「あ、あれみたい。」
私がそう言った時、奥の家から出てくる背の高い人影が見えました。 その人は、こちらを向いて手をあげました。
「あれ、多田さんじゃないの?」
Rに言われ、心臓がドキっとしました。
「あ、そうかもしれない」
「なんか背が高くてカッコいいじゃん。」
そう言いながら、Rは私の背中を軽く叩きました。 私は急に緊張と共に心細くなり、
「Rも一緒に来ない?」
と誘ってみました。
「今日は用事があるから帰るよ。じゃ、がんばってね。」
そう言うと、さっさとRは元来た道を歩いて行ってしまいました。 私はRの後姿を見送りながら、「何を頑張れっていうんだろう」と少しだけ泣きたい気持ちになりました。
Rが見えなくなるまで見送って振り向くと、多田さんが私の方を見ていました。 私は会釈をし、多田さんの方へ待たせてるというのに走る事もせず、ゆっくりと歩いて行きました。
「こんにちは」
「こんにちは。今の友達?」
「そうです」
「一緒に連れてくれば良かったのに」
「なんか、用事があるって断られちゃいました。」
この会話で、私は
多田さんは、別に私と二人で会いたかった訳じゃないんだ?
と思いました。
ということは、やっぱり気楽でいいんだ。 親切にしてくれるお兄さんでいいんだ。
一気に肩の力が抜けていきました。
その日は、一週間前と同じ海へドライブに連れてってもらい 一週間前と同じような時間に同じ場所で車を止めてもらいました。 車から降りる時に多田さんは
「また電話して」
と言いました。 私は何も考えず、
「はい。今日は有難うございました。」
と返事をし、車のドアを閉めました。
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