こんなに泣ける人間だったのか、と。 まるで他人事のように自分が泣いている事に気付いて思わず笑った。 嗚咽まじりで笑い声だか鳴声だかわかりもしなかったけれど、たしかに俺はもうおかしくておかしくてたまらなかった。 まだ濡れてなんとなく重い髪をかきあげた。 水滴が外気で冷えて、指先を冷やす。 溢れて頬を伝う涙は温かくて、それでも体はひどく寒い。 その差すらもおかしく思える。 世界が愉快に歪んで見える。 それがまた、おかしい。 ひとしきり笑いながら、ふらつきながら、空をあおぎながら歩く。 ゆっくりと、あるく。 ああなんて愉快なんだろう。 くるくると不安定に回りながら、酔っぱらいのようにふらついて歩く。 まるで危ない人間みたいだ、と思えばさらにおかしい。 ああ俺は、俺はね。 やっぱりお前の言うとおり頭がおかしいんだよ。いくら罵られたって、構わないと思う。 お前になら。 お前になら。 ねぇ、亜久津。 罵ってもいい、見下してもいい、愛さなくてもいいんだ。 ただ側にいることを許して欲しいだけなんだよ。 お前の側にいられたらそれだけでいいんだ。 甘えられなくてもいい。 本心なんてお互いに隠していても良い。 本当はお前が俺なんか嫌いでもいい。 ただ俺をお前の側にいさせてもらえたらそれ以上なんて。 どうか、亜久津。 「……拒絶しないでよぅ…」 呟きがやたら響いたような気がして、それがまた情けないやらおかしいやらでまた笑った。 嗚呼、のらりくらりと歩き続けてどれぐらいたっただろう。 もううまく視点が定まらない。 酔いがまわったみたいだ。 世界が回る。 世界が歪む。 それでも明日からまた世界は元通り。 涙がこの夜のうちに、この体からすべてでていってくれるだろうか。 夜が明けて、朝日が登って空の色が変わって。 そしたら俺はまた、いつもみたいに綺麗に笑えるんだろう。 笑わなくちゃいけないんだろう。 滑稽な自分をおかしく思って、今夜だけでも弱い自分をだし尽くしてしまえば。 きっと明日からもうまく生きていける。 日付が変わって夜が明けて朝日が登って空の色が変わって。 明日だって世界は美しいふりをしたまま。 夜が終ればまた世界は仮面をかぶる。 取り残されたら最後なんだ。 -- いつもながらわけがわからん…。
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