俺はお前が好きなんだよと言えば相棒は快活な笑い声などあげてくれた。奴にとっては窮屈だったろう仕事上がりだ。多めにみてやる。 「なんだい、笑うたぁお前よ。冷てェ野郎だ」 背もたれからいきおいをつけて身体を起こす。次元は相変わらず帽子のつばを深く下げてその顔色を見せないでいた。 次元は氷が溶け出したバーボンをあおった。袖口から生っ白いーー生っ白いといったっておそらくはあの侍野郎よりこの非情なるガンマンのほうが健康的な肌色だが、しかし俺よりは白い。間違いなく白いーー腕が覗く。毛が生えていて骨ばっていてまごうことなき野郎の腕。柔らかくてなめらかな女の柔肌とはすこしも被らねぇその手首だが、俺は言いようのない欲情を覚えた。 じっとその手の動きを追って、それからテーブルに手をついて身を乗り出す。帽子のかくれた表情を読む事なく俺は次元にキスをした。 唇からは、バーボンの残り香。いつもしている煙草の香りは不思議に感じられなかった。そういえば、と考えれば次元はこの三日禁煙していた。そう。俺がそうしろと言ったのだった。煙草の匂いでお里が知れちゃあ変装の意味がない、と。なるほど。鼻をひくつかせればそのスーツや帽子なんかには染み付いているだろうが、唇からはきれいさっぱり消えていやがる。辛かったろうに!と今更思いながらもくくと笑う。すると奴が不審そうな顔をするのでペルメルの味がしないお前は珍しいと囁けば、次元はじゃあもう一度するか?と笑った。その唇にはわずかな、あまりにも微かな笑みがあった。上機嫌のその唇からはアルコールの匂いがぷんぷんしてやがるが、なんといっても俺はその笑みが好きだ。 そうだな、と俺は答えてもう一度唇を重ねた。
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