ちょっと奥さん、聞いてくださいよ。 こんなやるせない話ってあります?
昨日の深夜、最近よく行くバーに顔を出したところ、 先客として、いつもはそのバーにいないタイプの キャバ嬢風のきれいな姉ちゃんがカウンターに座ってたのね。 隣しか席が空いてなかったのでオレはそこに座ったんだけども、 かなり酔ってらっしゃる様子で、しきりに彼氏の愚痴を喋ってんのよ。 マスターや他の客と一緒になってオレもその愚痴に付き合うこと一時間ほど。 酔いはさらに回ってきて、手を滑らせて鞄の中身はぶちまけるわ、 トイレに行こうとして足をもつらせ床に倒れ込むわ、散々な有様で。 そんな状態でオレに「他の店で飲み直そうよー」なんて誘ってきたんだけど、 いやいや、あんたそれどころじゃねーでしょ、って話。 オレがそろそろ帰ろうとするとその姉ちゃんも会計を始めたからさ、 話の中で近所に住んでるってことはわかってたし、 マスターに家まで送ることを告げて一緒に店を出たのが二時ごろだったか。
さて、そこからが大変ですよ。ろくに歩けないんだもの。 なのにオレの自転車に乗ろうとする。もちろんすぐコケる。 そのまま路上で寝ころぶ。起こして歩かせる。立ち止まる。 押す。引っ張る。座り込む。立たせる。急に走り出す。もちろんコケる。 そんなことを延々繰り返して、普段は5分で歩ける距離に30分ほどかかり、 ようやく家に近づいたころ、少しは酔いが覚めたのか「もう一軒行こうよー」と。 オレが日を改めてと断るも、もう姉ちゃんは繁華街の方に向かって歩き始めてんの。 しょうがないから24時間営業の居酒屋に入って一杯だけ付き合ったのね。 もちろん会話なんて全然噛み合いませんよ。同じことを何度聞かれたことか。 で、料理を二品だけ頼んで、オレが食ってるといきなり「もう帰るー」と。 どれだけ自由なんだよ、この姉ちゃん。もちろんオレのおごり(泣)。
ちなみにこの時点でオレの性欲メーターはゼロなのね。 そりゃ日を改めて一緒に飲んでみたいってのはあるけども、 ぐでんぐでんだわ、彼氏はいるわ、キャバ嬢風の風体って嫌いだわ、 そんな姉ちゃんとヤるなんてオレの美学に反するわけ。 顔はきれいなんだけど、今のこいつにはその気になれんなあと。
そこからもまた上記の無限ループを繰り返して5分の距離を30分かけて歩き、 ようやくマンションの前まで来たものの、相変わらずろくに歩けない始末。 しかもオートロックの鍵さえ開けられないようだから、 一緒に鞄の中を探してエレベーターに乗り込み、部屋まで付き合ったのね。 ここでまた鞄の中に埋もれた鍵を探すのに一苦労して、ようやく解錠。 玄関でブーツを脱ぐのに悪戦苦闘してるからそれも手伝ってやって、 部屋に押し込んでようやく任務完了と思い、 改めて部屋の中を見渡すと、すげーきれいなのな。 部屋数は少ないんだけど、モデルルーム?ってぐらいの簡潔さで、 ものがほとんどない上に掃除が隅々まで行き届いてる雰囲気で。 これはオレの想像だけど、その姉ちゃんの印象と相まって、 ここってパトロンが与えた部屋なんじゃねぇかなあと思ったり。
まだ床に倒れ込んだままの姉ちゃんが「冷蔵庫にいろいろ入ってるから」ってんで、 さすがにこれだけ頑張ったんだから労をねぎらってもらう権利はあるわなと 部屋に上がり込んで冷蔵庫からビールを取り出し、ソファーに腰掛けたのね。 倒れたまま携帯をいじってる姉ちゃんと軽く会話をしつつ(もちろん内容はちぐはぐ)、 10分程度のリラックスタイムを楽しんでたわけ。 ビールも飲み終え、そろそろ帰るかとタバコをもみ消したあたりで、 いきなり姉ちゃんがふらふらと立ち上がって着替えを始めたのね。 目の前でエロスな黒いパンティーが、ブラジャーが、滑らかな肢体がドーン!ですよ。 「え?え?・・・これって?」と思ったのも束の間、 今度は「これ、彼氏のだけど」と寝間着を投げてきまして・・・。 そりゃいくら美学に反するとはいえ、 ここまでお膳立てをされりゃ性欲メーターMAXいっちゃうでしょ! 数年ぶりの女子の部屋にお泊まりですよ! エロスな夜の幕開けですよ! 一気にテンションも上がり、「オレ、寝間着はいらな・・・」 そこまで口にしたとき、深夜四時にもかかわらず姉ちゃんの携帯が鳴ったのな。 電話に出て二言、三言会話を交わし、電話を切って一言。
「今から男が来るから帰って」 「はぁ〜〜〜〜〜?」
男ってのはさっきのメール相手らしく、彼氏じゃない別の男だと(パトロン?)。 しかももうタクシーでこっちに向かってると。 どうやらオレを部屋に連れ込んだのに、 「今帰ってきた。寂しい」って感じのメールを男に送ってたようなの。 いやいや、無茶苦茶でしょ! このベクトルを失ったオレのムラムラの矛先は !? 揉め事に巻き込まれたくないから「ああ・・・」と部屋を出たもののまったく納得出来ず・・・。
しかもバーのマスターに「今ごろよろしくやってたりして」と思われてるのも癪だから、 このやるせない話を聞かせようとバーに戻るもすでに閉店済み・・・。
やるせない! あー、やるせない!
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