まーくん的日常...まーくん

 

 

読み違い - 2002年04月04日(木)

こんなハズじゃなかった、ということは世の中、ざらにある。
いわゆる、「読み違い」というヤツである。

C君の場合。
彼はキャリアバリバリ、みたいなひとつ年上の女性と結婚した。ちなみに社内結婚。
そのとき彼は30歳、彼女は31歳くらいだった。
彼女は、ブランドもののスーツが似合う、ゴージャス系美人。
生活感をまったく匂わせないひとで(というか、ずっと親と同居していたこともあって、家事なんか絶対しそうにないひとで)、そんなのをよくヨメにもらう気になったな〜とは思ったが、まあ蓼食う虫も好き好きだからと、僕は静観していた。
彼としては、家事がまったくダメでも、ヨメを再教育してやる!くらいの「読み」だったに違いあるまい。

しかし、現実はそうは甘くなかった。
彼女は結婚した後も、自分の営業の仕事を最優先させて、平日はまず早い時間に家に帰ることはない。
というか、ほとんど毎日午前様。
たいていは、お得意の接待で酒も入って、酔っぱらってご帰宅あそばすのである。
一方、彼はヒマを絵に書いたような管理部門のセクションにいるので、残業はほとんどなし。
まっすぐ家に帰ると、ヨメが帰ってくるまで、6〜7時間、ひとりで過ごさないといけない。
当然、メシも自分で作らないといけない。
彼も結婚前はずっと親と同居していたから、家事が得意だったわけではないのだが、イヤでもやらざるをえない。
休日はどうかというと(これはあくまでも外野からの推測だが)、彼女はおそらく家事だってろくにせず、寝てばかりいたのではないだろうか。
そんな状況が十年近くも続く。
C君はじっと我慢していたが、あるとき、ヨメが社内不倫をしているとの噂を聞き、ついに離婚を請求しようと決意する。
しかし、ヨメはまったく浮気の事実を認めようとはしない。
離婚を求められるいわれなどない、というわけである。

そんな状態に業を煮やしたC君、そちらが浮気してないというなら、こちらが浮気すれば別れられるだろ!とばかり、社内の女性社員(それもこともあろうに、普段からヨメと組んで仕事をすることの多い後輩女性社員)と付き合ってしまった。
そして、当然のように、不倫発覚。
かくして、彼は(望み通り?)離婚をすることとなる。
しかも、彼女に多大なる代償を払って。(結婚後に彼が購入したマンションは、彼女のものとなった)。

そうまでして、別れたかったという彼の気持ちは、他人にはよく理解できないが、とにかく、彼は十年以上に及ぶ婚姻関係を解消し、では付き合っていた後輩社員と再婚したのかというとさにあらず、別れてから数年たった今も、独身のままである。
まあ、再婚するしないは彼の自由なのだが、そんなことなら、最初っから結婚などしないほうが良かったんじゃないの?というのが、おおかたの周囲の意見。
男女を問わず、30にもなった人間を、自分の望むようなタイプに再教育できるだろう、などと読んだことが、すべての間違いの始まり。そう思う。
人間、現在見たままの彼(彼女)よりダメな人間であったと判ることはあったとしても、将来今よりマシに
なることは、断じてない。
たとえあなたが、スゴ腕の教師であったとしても、だ。
そのへん良く考えて、相手を選ばんとね。


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リスク - 2002年04月03日(水)

昨日までの日記を読まれたかたは、僕が「不倫」に対して全面的に否定的な考え方をしていると思われたかも知れない。
でも、実はそうではない。

人間というものは、「誤謬」する生き物だと思う。
あるとき、これが正しい選択だと思ってやったことが、後日間違っていたと気づくというケースはいっぱいある。
「伴侶の選択」、しかり。

どんな人間も、自分の人生に関しては、結局ひとよがりな決断しか出来ないものである。
ことに若いうちはそうだ。
だから、結婚してしばらくしてから、やはりこの相手を結婚したのは間違いだったと思うようになったとしても、無理からぬことではある。
そういう意味で、人生をやり直すために、最初の伴侶と別れて、別の相手と一緒になるという行動は否定しない。

しかし、そのつもりもなく、ただただ「火遊び」「つまみ食い」に過ぎない行動を、「恋愛」の名のもとに美化するようなタイプの「不倫」は、愚行以外のなにものではないと思う。
ことに、不倫相手に対して、「妻とは別れる」などと言って期待させておきながら、その実、まったく妻と別れる気のないような行為、これは妻同様、愛人さえもあざむく卑劣なことだと思う。
そんな二重の不実をするくらいなら、最初から「君とは遊びでしかないから」と宣言して始めればまだゆるされるのに。そう思う。
(が、現実には、そう言ってしまうと、相手にされないという危惧から、見え透いた嘘をつくヤカラが多いのである。)

取り引き先の会社に、Bさんという男性がいた。
彼は、妙に人なつっこい感じの、陽性のひとだったが、仕事を一緒に続けるうちに、彼が、なかなかいわく因縁のある家庭に育ったことを知るようになった。
彼の父親は、有名な作曲家だった。
おもにポップス系の歌謡曲を数多く作曲し、いくつものミュージカルも手がけ、その代表曲は音楽の教科書にも載っている…といえば、これをお読みの皆さんにも、おおかた察しはつくであろう。そういう超有名なコンポーザーであった。
しかし、Bさんに聞くと、父親とは一緒に住んでおらず、母親とだけ同居しているという。
その事情が、そのうちはっきりしてくる。
Bさんの父親は(実はもう故人であるが)、生涯に五回くらい(正確にはよくわからない)、結婚したひとだそうなのである。
つまり、何度も結婚と離婚を繰り返したということだが、新しい女性とデキてしまい、離婚するたびに、ヒット曲で稼いで買った家を妻子に明け渡し、しかも、生活費・養育費もずっと各家庭に払いつづけたという。
なんという、潔さ。
そのくらいの負担をしょいこむ覚悟なくして、浮気だの離婚だのをしてはいけないのである。
きょうびは、男女平等やら、女性の自立だのなんだのと言い訳をして、離婚にあたってろくに別れた妻や子に生活費を払わない男性が多いようだが、少しは彼の「別れの美学」を見習っていただきたい。
そういえば、鞍馬天狗役で一世を風靡した嵐寛寿郎さんも、何度も結婚と離婚を繰り返し、そのたびにすってんてんになっていたと聞いたことがある。
その心意気や、よし。
そういう行動をアホらしいと思う人間は、昨日登場した、ケチくさい「つまみ食い男」と同類項だと僕は思っている。
リスクを背負う覚悟のないイージーな不倫だけは、絶対認めるものか。


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つまみ食い - 2002年04月02日(火)

昨日の日記でおわかりいただけたと思うが、うちの会社は「社内不倫」にかなり寛容なようである。
どうも、社内の女性社員に手を出し、モノにしたことを自慢のタネにするようなヤカラが多い上に、そいつらをうらやましがるバカが多いのである。
不倫歴が「武勇伝」となっているなんて、なんとも情けない。
不倫といえば聞こえはいいが、要するに「つまみ食い」。
つまみ食いを自慢するやつも自慢するヤツなら、自分では出来ないからそれをうらやむヤツもうらやむヤツである。

ひとり、その「つまみ食い」を得意がるバカの典型がいる。
彼は、自分の社内不倫の情報をわざと広めて、得意がっているようなバカ中のバカ。
見ためは、タッパがあって押し出しがいい、顔も結構男前の、いわゆるナイスミドルタイプ。
しかし、人間としては、ほぼサイテーのランクに入るといってよい。
まず、「カネ」にきたない。
彼は、カネにまつわるダーティな噂にはことかかない。
出入りの業者(おもに宣伝広告関係のプロダクション)にキックバックを請求し、彼らからせしめた賄賂の蓄えだけでも数千万円になるとか、ならないとか…。
会社もその事実をうすうす感づいたようで、彼を出来るだけ、キックバックをもらえないようなセクションに異動させたりしている。

「カネ」にきたないヤツの多くの例にもれず、「オンナ」にも実にきたない。
結婚してから手をつけた社内の女性社員は、片手とも両手ともいわれている。
もちろん、彼女たちは単なる「つまみ食い」。
手当やプレゼントだってロクに出さず、ただ肉体関係を持つだけ。
「ぼくたちは恋愛をしているのだ。相手の女性にお金を払うような不純な関係ではない」とでもいいたいのだろうな。
食事ぐらいはごちそうするのだが、それにしたって領収証をもらって社の経費で落とすことなんざ朝メシ前。
ひどくなると、相手によっては、ワリカンにしたり、相手に払わせたりもしたそうだ。
自腹で出すのはホテル代くらいのもの。
言ってみれば、彼にとっての彼女たちは安上がりなフーゾク嬢にも等しいのであった。
いや、それ以下といえるかも知れない。

あるとき、その浮気が奥さんに知られるところとなる。
奥さんは元社員。つまり、そもそもから、社内の女性社員に手を着けていたというわけ(笑)。
当然、彼女の元同僚がまだ社内に何人もいるから、そりゃ情報は筒抜けになる。
そこでお決まりの修羅場が展開し、いったんは彼が謝るかたちでケリがつく。
しかし反省など、うわべだけのことだから、またぞろ浮気の虫が騒ぎ出し、不品行をまた奥さんに知られることになる。
イタチごっこである。
結局、奥さんは離婚を望んでいないことから、ふたりは別居することになる。
そうなると、彼のご乱行はいよいよ手がつけられなくなるが、奥さんのほうも、もう彼の「矯正」はあきらめて、カネをもらって割り切ることにする。
つまり、彼の貯め込んだ「裏金」ン千万円を吐き出させて、飲食店を始めたのである。
こうなると、奥さんのほうがウワテという気もしてくるが、離婚により全財産を失わないだけ、まだ彼は恵まれているのかも知れない。

こういう男ほどではないにせよ、フーゾクに行くよりも安上がりだからということで、社内の女性社員に手を着けるバカは枚挙にいとまがない。
ま、そういう手合いは、たいていバレて、それなりにキツい代償を払うはめにはなっているのだが。
女性を甘く見ていると、大ケガしまっせ。


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スキャンダル - 2002年04月01日(月)

うちの社内で、ちょっとしたスキャンダルが起こっている。
某部の女性社員(独身・30代後半)が、なんとこの3月末から「産休」に入っているのだ。
もちろん、社内にアナウンスされてはいないが、本人が上司に申請し、人事部も了解、関連セクションの大半の人間が知っている「周知の事実」なのである。
さらに凄いことには、この女性のお相手、独身男性ではない。
妻子持ちの男性、しかも、同じ社内の人間だという。
いやそれだけなら、ありふれた社内不倫の一結末に過ぎないだろうが、このふたりはなんと15年以上前、男が結婚する前からの関係だというのだ。
言ってみれば、男は妻子を15年以上にわたって欺き続けたということだ。
なんという、最悪のパターン。
週刊誌あたりにすっぱ抜かれたら、一体どうするんだろうというような、極めつけのスキャンダルなのである。
さすがに、今回産休をもらうにあたっては、会社側からも、ふたりに対して要求があったようだ。
「産むのなら、奥さんと別れて、彼女と結婚すること」
そりゃ、当然だろうな。会社も、私生児を産むことを表だって認めるわけには行くまい。
男のほうも、すでに昨年の途中から、家を出て、女性とともに暮らすようになっている。
年明けには、女性のほうの名義で社内融資を受けて、新しい住まいを購入した(彼のほうは、妻子の住んでいる家のためすでに社内融資を受けていて、彼女の名義で借りざるを得なかったのだ)。
しかし、離婚はまだ正式には成立していないようで、このまま行くと、妊娠した女性は彼と入籍する前に出産せざるを得ないようである。
離婚が無事成立すれば、ふたりは晴れて世間にも顔向けが出来るわけだが、果たしてソフト・ランディングは可能なのだろうか。
ま、なんとかうまく別れたとしても、彼は少なくとも、妻子のために家を明け渡し、生活費・養育費を払い続けざるをえないであろう。ま、長年の不倫の代償として、そのくらいは当然だろうな。

なんともはやな話である。
いつぞやのシングル・マザーの話と表面的には似ているが、もちろん、本質的にはまったく違うケースだ。
シングルマザーの道を選んだ彼女は一切、相手、相手の家庭に迷惑をかけていない。
今回の場合、その男性にせよ、女性にせよ、余りに「思慮分別」が欠けている。
その男性は、相手の女性でなく、別の女性を伴侶として選んだ時点で、今後一切逢わない覚悟をするべきであった。
また、女性のほうも、男性が結婚相手として自分を選ばなかったという事実に直面した時点で、「日陰者としてでいいから逢ってほしい」などと望むような真似は、意地でもするべきではなかった。
どちらも、大バカヤロ、そういうことだ。

結局、(たぶん)何の罪もない彼の妻と子供が、一番傷ついている。
彼の「離婚してくれ」という要求には、すんなり従うべきではない、そうも言いたくなる。
離婚届にハンコを押してしまったが最後、彼は新しい生活をめいっぱい謳歌できるのだから。
出来る限り、もったいをつけて離婚まで長期間男性を振りまわしてやればいい。
そして、不倫相手の女性にも、多大の代償を要求するべきだろう。

教訓:「愚かな男と女は、周りの人間までも不幸にする」


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キス - 2002年03月29日(金)

「キス」で始まる恋は星の数ほどもあるだろうが、「キス」で終わる恋も稀にはある。

15年以上前のこと。
当時僕は、同じ社内のAさんという先輩女性社員に憧れていた。
入社では4年、年齢では1歳年上。
とにかく、大人の雰囲気のある女性で、彼女の視線の「色っぽさ」といったら、生まれてこのかた会ったことのある女性の中でも随一であった。
(歌手の藤あや子、それから桐生典子さんという女性作家くらいかな、彼女の色っぽい目つきに対抗できるのは。ま、それくらいの色っぽさなのである。)

そんな彼女と、仕事では一度もかかわりあいがなかったが、ある年、たまたまふたりとも社内旅行の幹事をやることになって、彼女とお近づきになる機会が舞い込んで来た。
当時、うちの会社では、社長(営業畑一筋、いわゆる「たたき上げ」のタイプ)の息が直接かかった営業・管理部門の何部かがまとまって、100人以上の規模で旅行をやっていた。
その幹事として、各部から二名ずつが選ばれたのだが、僕もそのひとりになったのである。

旅行中は、とにかく社長が直々に出席する旅行ということで、なにかと気を遣わねばならず、幹事同士の親睦を深めているヒマなどなかったが、その代わりに、旅行が終わってから、別に打上げというか慰労会をするという慣例があった。
旅行が終了して数週間後、社からは少し離れた街にあるカラオケ・パブで、幹事打上げは行われた。
幹事のまとめ役、いわゆる幹事長のベテラン男性社員が、
「今日は無礼講でいきましょう」
と宣言した。

僕は、入社以来何年もの間憧れてきたAさんが同席していたことで、多少うれしくもあったが、かといってなんらかの「出来事」を期待していたわけではなかった。
いわゆる偉いサンは誰も出席しておらず、それゆえ、一座はほどなく酒の勢いも借りて、次第に乱れていった。
Aさんは早いピッチでお酒を空け、そのほほが桜色に染まっていく。
そのうち、歌いまくるヤツ、女性とチークダンスを踊るヤツ、気持ちが悪くなって吐くヤツと、「饗宴」はエスカレートしていく。

気がつくと、少しずつ席順も変化し、僕の前にAさんの顔があった。
もうその瞳ときたら、たとえようもなく、悩ましい輝きを放っていた。
その時だ。彼女の唇から、思いがけない言葉が発せられたのは。
「●●さん(僕のことだ)、私のこと、嫌い?」
一瞬、息を呑んだ。
「いや、あー、嫌いなわけないですよー」
「そう、ありがと。じゃあ、キスして、私のここに」
彼女は、自分の片方のほほを指差してみせた。
「は、はい」
次の瞬間、僕はなぜか従順に、彼女のリクエストを遂行してしまっていた。
あっという間の出来事だった。

僕は、しばらくの間、自分がなぜそんなことを即座にしたかよくわからず、ボーッとしていた。

そのうち、これ以上グチャグチャになってはまずい、という判断から、幹事長が宴のお開きを宣言した。
Aさんは、僕の家とは全然違う方角に住んでいたので、誰か別のひとが送っていった。

その後、僕は、これをきっかけにAさんに近づいていったかというと、まるで逆だった。
むしろ、それまでの彼女と付き合いたいと言う願いがすーっとしぼんでいってしまった。
不可解だといわれそうだが、生身の彼女にキスしたということで、僕の心の中にあった恋心は消滅したのである。

彼女は当時、さまざまな悩みをかかえ(その多くは男がらみだったようだ)、それゆえにお酒を飲むたびに、誰かに甘え、そしてキスをしてもらいたくなる。
そういう、生身の彼女と接触したことで、僕は、イメージとしての彼女しか恋していなかったという事実にぶちあたった。
彼女とて、ひとりの人間、エゴを持ち、さまざまな葛藤の中で生きている。
ただただ美しいものを愛でることに憧れていた僕には、まだまだ判らない心の「暗闇」が彼女にはあった。
「僕には彼女と付き合う資格はない」
そう、思った。
そういう判断をした僕は、ただの臆病者だったのかも知れない。
が、それもまた「恋」のありかたのひとつだと思ったのだ。
そう、成就することの決してない、「透明な想い」だけの「恋」。


今もAさんは同じ社内にいるが、もちろん今だって彼女のことが嫌いなわけではない。
でも、たがいに遠くから目線を交わし、微笑みかえす、それだけの関係がずっと続いている。
こんな関係、これを読まれた貴方は、どう思うだろうか?




...

女心(その六) - 2002年03月28日(木)

7歳年下の女性との話の続き。

今から11年か12年前のこと、つまり僕も彼女も独身だった頃、ふたりで飲んでいて、こう言われた。
その時、僕はたぶん32歳、彼女はたぶん25歳。
「わたしが30まで独身のままだったら、結婚してくれない?」

どういうきっかけで、そんな話になったのか、まったく記憶が消し飛んでいるのだが、なぜかそのくだりだけを覚えている。
当時彼女は着付けの教師をやっていたが、あと5年間、ひとりであれこれチャレンジしたいのだけれど、30歳になったら落ち着きたいから…ということだったのだろう。

それに対して、僕は「もちろん」ともいわず、かといって「嫌だ」ともいわず、ナマ返事をしたような記憶がある。

その頃の僕は、社内のとある女性に交際を申し込んでいながらも、その女性から「一対一のお付き合いはどうも…」などとやんわり拒否されていた状態であった。
もちろん、今の妻ともまだ知り合っていない。
だれか、結婚してくれそうな相手がほかにいるわけでなかった。
そういう意味で、彼女は僕にとっても一種の「保険」とはなりえた。

だから僕は、「もし僕があと五年後もひとりでいたならね…」などとはあえていわず、「まあまあ」となだめるように「イエス」とも「ノー」ともつかない、でもどちらかといえば肯定的な返事をしたのだと思う。

そこから数年、なぜか彼女と会う機会がなくなる(別にわざと会わないようにしたわけではない、念のため)。
結局、五年待つことなく、僕は約二年後、別の女性と結婚してしまう。

そのことに対して、彼女はどのような思いを抱いたかは、僕にはもちろんわからない。
「あの約束(というほどのものでもないが)はどうなったの!?」
と責めるようなものなのか、
「どうせ、口約束だから忘れてもしょうがないわね」
と軽くあきらめたのか。
よくわからない。
なにせ、ふたりには「肉体関係」(響きがよくない言葉だが)はまったくないのである。
「責任とってね」なんて言う間柄ではないのだ。

思うに、僕は彼女との「恋愛」をかなり早い時期から断念していたのではなかろうか。
「足長おじさん」ではないが、彼女の「代理アニキ」に徹しようとしたのだ。
なぜか。

恋愛というものは、多くは「入り口」での勝負だ。
まず「付き合う」「付き合わない」という「篩(ふるい)」にかけ、その中間というあいまいな選択肢は、ふつうとらない。
過去に何度も「入り口」で拒絶、まさに門前払いを食らった苦い経験のあった僕は、彼女に「付き合ってくれ」と決断を迫ることにより、また拒絶されることを恐れ、「友人以上、恋愛未満」のぬるま湯的関係のままでいようとしたのだ。
やはり、拒否されることで傷つくのは、(慣れっこにはなっていたが)できれば避けたい、そう思っていた。

そんな姑息なことを考えていた自分にくらべれば、今回、シングルマザーになる「決断」をした彼女はなんとも潔く、見事であった。
傷つくことを恐れている人間には、まともな恋愛ひとつ出来やしない、そういうことだ。
たぶん、僕のやりくちなどは、精神的にはずっと年上の彼女にはお見通しのはずなのだろうな。

「女心」を読んで、自分に有利なように事を運ぼうと思うなんて、ゆめゆめ思わないほうがいい。
しょせん男というものは、女性の掌(たなごころ)の上で飛びまわって意気がっている孫悟空のようなものだから。




...

女心(その五) - 2002年03月27日(水)

昨日の話の続き。

何年かぶりに会った彼女が言うには、「しばらく会っていない間に、わたしの身辺に変化が起こったので、当ててみて」だと。
「もしかして、結婚したの?」と聞くと「ううん、違う」と言う。
「じゃあ、養子にでもなったの?」と聞くと、「違うけど、そちらの方が近いかも」と言う。ええっ!?
子供が出来たのか…とも一瞬思ったが、あまりに信じられないことなので、とても言えなかった。
答えるのをギブアップしたら、やはり、こう教えてくれた。
「ワタシ、子供を産んだの」
つまり彼女は、シングルマザーになったということなのである。

で、さらに事情を聞いていくと、相手は独身男性ではないそうなのだ。
彼女は短い期間、その妻子ある男性と付き合い、別れたのだそうだ。
そして妊娠しているのに気づき、彼には伝えることなく、そのまま産む決意をしたのである。
しばらく、僕は呆然としていた。
「いやー、勇気あったねー」と言うのがせいぜいだった。
ちゃんと自活出来ていて、しかも、自ら託児業という仕事をやっていたことが幸いして、彼女はシングルマザーとしてやっていけるのだろうが、それにしても、誰にでも真似の出来ることではない。
その男性に「認知」等一切請求していない潔さにも、感心した。

が、向こうの家は、その事実を敏感に察知して、あれこれ言って来たのだそうだ。
つまり「一切、生まれた子供の、うちの財産相続の権利を主張しないで欲しい」みたいなことを言って来たとか。
これには、彼女も頭に来たらしい。
「こちらは認知だって要求していないのに、どういう言い草!」
ってことだ。

彼女がその娘の写真を見せてくれた。
「なんだか●●さん(僕のこと)に顔が似ていると思うの」
だって。
(もちろん、僕の子供ではないからね。念のため。)
確かに、以前はタレントもどきのような仕事をしたこともある彼女を母親に持つだけあって、可愛い顔立ちだった。
芸能界にデビューさせてもいいじゃないか、というくらい。
現在の彼女は、生きるエネルギーを、その娘からもらっているのだな、と思った。

しかし、そういう話を聞く僕にも、少し複雑な思いはあった。
(この話はまだまだ続くので、明日また。)



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