2006年10月05日(木) |
シュガー&スパイス〜風味絶佳〜 |
今回は映画ネタ。見てきたのは「シュガー&スパイス 風味絶佳」 (註:音出ます) 山田詠美の短編を原作とした映画である。 山田詠美の作品は、私の恋愛感に結構影響を与えている。 ということで、原作は(買ってはあったが)まだ読んでなかったんだけ ど、見に行ってきた。
この映画を第一印象を書くと、「地に足が着いてない感じ」である。 主人公は、高校卒業後、親の反対を押し切って、大学進学をせずに、 カソリンスタンドで働いている少年(柳楽優弥)。 彼には70歳になって尚枯れず、パワフルで年下のボーイフレンドを持つ グランマ、祖母(夏木マリ)がいて。 そしてそのガソリンスタンドにある日、沢尻エリカ演じる年上の女の子 がバイトにやってきて…という物語。
で、どのへんが地に足が着いてない感じか、というと。 この物語の舞台が、米軍横田基地のある、東京の福生で、実際横田基地 とか、街のアメリカ文化が入り混じった風景とかが、出てくるんだけど そんなアメリカ文化の色濃い福生でも、こういうガソリンスタンドは さすがにないだろう、という感じなのだ。
なんていうのかな、私たちが福生ってこんな感じだよね、と妄想を膨ら ませた感じに近いというか。 19の男の子が、アメリカンな一軒屋に住んでしまう辺りも、そういうの っていいよねえ、って感じで。 いや、実際の福生がもしそうなら申し訳ないんですけど。
でも、それがイヤな感じというわけでもなく。 むしろ、10代の男の子の初恋という、ふわふわした感じを描く上では、 その夢みたいな感じもいいかなあ、という感じで。
実際、夏木マリ演じた主人公のおばあちゃんにしても、さすがにそんな 人はなかなかいない、とも思うけど。 でも、原作を後で読み返してみたら、イメージそのままだったけど。
映画としては、短編の要素を、うまく膨らませたなあ、という感じ。 特に、おばあちゃんのエピソードの加え方は、上手いなあ、と。 で、少なくともこの映画のスタッフは、このおばあちゃんに関して、 原作者の山田詠美を意識しているんだろうな、と思うのだ。
というより、山田詠美自身が、自分が70になったら、こんな風に 若いツバメをもちつつバーを開いて、恋する若者たちを育てて生きたい んだろうなあ、という感じで。
ということで、以下、ネタばれを含むので、読む人は注意していただく として。
結果として、主人公の志郎くんは、彼女に振られてしまう。 振られた後、グランマは、志郎にこう言う。
「昔から言われていることだけど、女の子は、シュガー&スパイス。 甘いだけじゃ、タフさと優しさの配分を知らない男は、女に捨てられる のさ。解ったかね、このあんぽんたん」
そうなんだよねぇ。優しいだけじゃダメなんだよね。というのは、自分 の過去を振り返ってみても思うことであり。 じゃあ、タフさと優しさの、タフってどういうことなんだろう、とも 思うのだ。
それって多分、ねばり強さや、存在感の強さのようなものの他に、 もう一つ、付き合った女の子の前で、どれだけみっともない姿を さらけ出せるか、という勇気もあるんじゃないのかな。
これがね、何の縁もゆかりもない、こっちが一方的に好きな女の子に みっともなくなるのは、無様でみじめなだけかもしれないけれど、 でも、相手が付き合っていた女の子、一度はお互いに好きだった相手 だったら、自分がみっともなく取り乱す姿を相手に見せることは、許さ れる事なんじゃないのかな、と思うのである。
で、そういうのって、特に10代ぐらいの、こういう主人公みたいな タイプの男の子って、どうしても背伸びをしてしまうっていうか、 自分のそういう弱みをさらけ出すことに躊躇しちゃうと思うんだよね。 自分の経験から言っても。
沢尻エリカの元彼は、彼女の前で、自分のみっともない姿、本当の気持 ちをさらけ出せたけど、柳樂優弥演じる主人公は、そこでちょっとため らってしまった。 でも、本当は、若さっていうのは、そういう自分のまっすぐな気持ちを 相手にぶつけられるって事でもあるんじゃないのかな。
で、自分のみっともない姿を見せられるタフさっていうのは、言い換え れば、自分のエゴを、二人の関係の中で見せても許される、という事で もあると思うのだ。
多分、相手の女の子に優しいだけ、と言われてしまって、ちょっと物足 りない、と思われてしまうのって、もう一方では、一方通行の関係とい うか、お互いに与えたり与えられたりすることができないからの様な 気がするのである。
つきあうって、そんなふうに、お互いの利害というか、気持ちの上の 貸し借りが絡み合っていくにしたがって、より相手の事が大切になる ような気がするし。
だからできれば志郎くんには、彼女の目の前に立って、自分の情けなく てみっともない姿を別れる時に、見せて欲しかった気はするんだよね。 じゃないと手紙だけでさよならを告げた彼女にも、ずるいというか、 後ろめたい気持ちは残っちゃうような気もするし。ってそんな事は ないか? でも、そうやって初めて、今までの二人の思い出や歴史に、きちんと 決着がつけられるような気がするのだ。
主人公の志郎くんは、今、そのタフさを学ぶ入り口に立った状態なの かもしれない。 そしてグランマ=山田詠美にとっては、実は、彼がこの先どのように いい男として育っていくのか、それを見守ることこそが、"風味絶佳" なのかもしれないな、と思うのである。
|