デイドリーム ビリーバー
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「添乗員」が 「ツアーコンダクター」だの「ツアコン」だのと呼ばれて カッコイイ仕事のように思う人が少しでもいたのは、ほんの一時のことで
今では、ほとんどみんな知っています。
「添乗員」が、 拘束時間だけがやたらと長い、肉体労働で そのくせ給料は薄給で 体壊したら収入途絶えるのに、保険も保障も何にもない という、とんでもない待遇だってこと。
今の世の中、完全に保障されている仕事なんてないよ、なんて 言われてしまえばそれまで。 そう言えば「最近はサラリーマンも国保」って、新聞にありましたが。
でもやっぱり この給料で、国保と国民年金って、痛いです。かなり。
添乗員のイメージって言ったら、やっぱりアレでしょ。 あの、興ざめな旗を高々とあげて、中高年の団体をぞろぞろと連れてくる姿。
旅行雑誌に、よく投稿されてる。 「静けさを求めて行ったのに、団体客がいてがっかりだった」って。 その気持ち、すごくよくわかる。
私も、いやだった。つーか、今もいや。 もともと単なる旅好きの一人だったし。 学生時代は、添乗員になんて絶対ならないって思っていたし 客としてツアーに参加したこともない。
でも、この仕事にとりつかれてしまうと、もうだめ。 やめられないのです。楽しくて。
いまや、旗を持つのも平気です。 あれしないと、おじいちゃん、おばあちゃんがはぐれるんだもん。
でもこの旗を持つのも、実は今月で終わり。 先月から、仕事を減らして転職活動をしていたのです。 次の職場も決まった。楽しかったけど、そろそろ潮時です。 もともと次の仕事までのつなぎのつもりだったしね。
そういえば、お客様は いつも、いろんなことをやらかしてくる。
添乗員にとって、とても面倒なのが「忘れ物」でした。
解散の直前、バスの中でマイク持って言うんです。 口をすっぱくして「絶対忘れ物をするな」って。 でも4〜50人いると、しかもそれが年配の人となると 忘れるんですよね、いろいろなものを。
今回は「毛布」でした。
バスが解散場所に到着すると 添乗員と、ドライバーさんとガイドさんは、 まずバスを降りて 下のトランクから、お客様の大荷物をバンバンと出しながら 「ありがとうございました」 「お気をつけて」 って、去っていくお客様にあいさつする。
全員がいなくなると、添乗員はもう一回バスに飛び乗る。 道路わきに停車中のバスの中 大急ぎで忘れ物チェックをするわけです。
で、それが終わると ドライバーさんとガイドさんに 「ありがとうございました。またよろしくお願いします」 ってあいさつして、その場でバスを降りる。
忘れ物が大量の日は ドライバーさんとガイドさんが とても同情的なまなざしを送ってくれます。
でもバスで家までは絶対送ってくれない(当たり前)。
添乗員は、基本的に直帰。
そう。私は、この大量の荷物を持って 都内の地下鉄や電車を乗り継ぎ、アパートに帰るわけです。
ある日は、自分の分も含めて、傘を3本持って。 ある日は、発砲スチロールの箱(海産物入り)を2箱抱えて。
で、お客さんが家に着いた頃を見計らって電話して 連絡が取れたら、近所のコンビニから宅急便で送る。
まっすぐに帰る日はいいんです。 重かろうが、魚臭かろうが、頑張ります。
「忘れ物しないで」の言い方が悪かったんだ。きっと。 今度はもっと気合入れて言わなくちゃ。 あーそうですよ、全部私が悪いんですよーだ。
なんて思いながら。
でも最近は、仕事帰りにデートが控えていることが多く しかも今回の忘れ物は。
毛布。
おいおいおいおい。 勘弁してくれよー。 おいらはこれからデートなんだよー。
ドライバーさんが、哀れみのまなざしで、紙袋を提供してくれて それにむりやり毛布を押し込んで
彼との待ち合わせ場所に急ぐ私。 重いしカッコ悪いしで、ちょっと機嫌が悪い。
待ち合わせ場所にいた彼は 紙袋からあふれる毛布を見つめてひとこと。
「それはひそかに…えっちなお誘いなのだろうか…」
「違います!」
「外でしたいとかそういう…」
「だからちがうっつーの!」
エロじじいめ。
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