デイドリーム ビリーバー
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色々な人の日記を流し読みしていて、その一つに目がくぎづけになった。 息が、とまるかと思った。
写真と短い文章の、写真日記。 うつっていたのは、短い期間だったけど一度住んだことのある土地だった。 なつかしさに時間を忘れて見ているうちに、その写真にめぐり合った。
本当に、息がとまるかと思った。
町の中の、橋の上から撮られた写真。
私は、あの橋の名前を、知っている。 そして あの橋から見えるだろう、雪化粧した山の名前を、知っている。
あの橋は、私が 雪の結晶を肉眼で見られるということを、初めて知った場所だ。
私は、雪なんてめったに見ることのない田舎の町で生まれ育った。
私が高3で、その人が浪人生。 私たちは、予備校の休憩室で知り合った。 予備校が肌に合わなくて、すぐにやめてしまった私たちは 家が近所だったこともあり、図書館で、一緒に勉強するようになっていた。
田舎だったから、目立ったらしい。 こっちがびっくりするぐらい、周囲はうるさかった。
「受験」「男女交際」なんて言葉を振りかざす教師達は、意外にも簡単で 夏休みの間に偏差値を10あげたら、ぱたりと何も言わなくなった。 (元々が低すぎたということもあるけど)
面倒くさかったのが、同級生。
いわゆる「恋バナ」をしたがる女の子達。 キスやセックスの、体験談や噂話をしたがる女の子達。
こういうこと、このジャンルで書いたら、ヒンシュクかな。 いつもノロケ書くくせに、矛盾って思われるかな。
ま、いいか。そんなにたくさんの人が読んでいるわけでもないし、 いーや。書いちゃえ。
私、実は、そういうの、大っキライなんです。
恋愛やセックスに、興味がなかったわけじゃない。 ただ、私のスタンスとしては
恋愛?そういう相手にめぐりあえたら、するよ。 セックス?そういう相手にめぐりあえたら、するよ。 当たり前でしょ?騒ぐことじゃないでしょ? それにそれが、早かろうが遅かろうが、関係ない。
そんな感じだった。
「○○ちゃん、彼に告ったんだって!」キャーッ! 「△△さんがホテルに入るとこ見ちゃった!」キャーッ! 「□□さん、彼と別れたんだって!」エーッ!ナンデーッ! 「×組の×さん、子供おろしたんだって!」エーッ!ウッソー!
なんて、さすがにここまでひどくはなかったけど でも、近いものがあったようにも思う。
こういう人たちが、将来 「結婚まだなの〜?」 「お子さんまだなの〜?」 って言うんだって思った。うるさいって、思った。
こういう人達は、頭は沸騰しているくせに、心が冷たいんだと思った。
私は 体の成長は遅いけど、心は、ちゃんと成長させようと思った。 頭はきちんと醒めて冷静に、心はあたたかく そんな大人になろうと、思っていた。
私と彼はつきあってはいなかった。 だけど、そう言うと 「えー、早く告っちゃいなよー。受験なんて気にしないでさー。 私達が言ってあげようか?」
勘弁してよ、もう、って 同級生みんなが、バカに見えた。(つまり自分自身もガキだったってことだけど) 田舎のこの町を、はやく飛び出してしまいたかった。
誰も信じてくれなかったけど 私達は、お互い好きあってもいなかった。
言うなれば、同士のような。
思春期特有なのか、どうなのか どこか生きにくい、息苦しい世界に、それぞれの方法で戦っている 戦友のような。
でも、そんなふうに思っていたのは、私だけだったのかもしれない。 彼は、私といるのが居心地よさそうでありながら、 どこか秘密を持っている感じがしていた。
ずっとあとになってから、ふと思ったことがある。 彼はもしかしたら、ゲイだったんじゃないだろうか。 そう考えると、いろんなことが腑に落ちるのだ。
今となっては、確かめるすべはないけれど。
彼は、成人するのを拒むかのように、死んでしまった。 みずからの手で。
雪の結晶の写真を、一緒に、図書館の本で見たことがある。 肉眼で見ることができるなんて、思いもせずに。
彼が死んで 春、逃げるみたいにして、東京に出てきた。
その頃私には、絶対に叶えたい夢があった。 彼を見殺しにしたのだから せめて私は、せいいっぱい生きなくちゃって、必死にもがいていた。
でも、それも限界の時は来て。
今も私の左腕には、その時の事故の、小さな傷跡が残っている。 夢を諦めなければならなくなった日。 ばかみたいに、ボロボロ泣きながら夜道を歩いて その橋にさしかかったとき
埃みたいに、パラパラと落ちてきた雪が 私のコートの腕に引っかかるようにして、とまった。
結晶。
彼に「もういいよ」って言われたような気がした。 許されたような気がした。
そんなの、ただの都合のいい空想だっていうことはわかっているけど
彼は天にいる、そう思った。 天で、雪の結晶をつくっている。
彼に、借りっぱなしになっているCDがある。
『島唄』 THE BOOM
このうたを、彼に返したくて 届けたくて 私は、時々一人で口ずさむ。 最近では、もう、年に一度ぐらいだけど。
“ウージ(さとうきび)の森であなたと出会い ウージの下で千代にさよなら”
“島唄よ 風に乗り 鳥とともに 海を渡れ 島唄よ 風に乗り 届けておくれ 私の涙”
“島唄よ 風に乗り 届けておくれ 私の愛を”
島唄は 風に乗り、海を渡って、天にも届くのだろうか。
彼が生きた証拠に 私は、今も 強くなりたいともがきながら、何かと戦って生きている。
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