前略
川縁のベンチの上に横たわる
雲が無い空には地上の光に霞みつつも いくつかの星は瞬き 視力を矯正するプラスチック片を通して僕の網膜で像を結ぶ 想像もつかない遠くから ただ光続ける星々 今 時同じくして僕と同じように星を眺める人はいるのだろうか もしいたとすれば その人は何を思うのだろうか
目を閉じる 視覚からの情報は途絶え 途端に僕は地上の一部となる 風向きによって聞こえる対岸のギターの音 肌をただ流れていく風 川の波音 川魚が跳ねる水音 散歩する人の足音 遠くの橋を走る車の音 虫が奏でる音色 切れかけた街灯の音 風に吹かれ擦れあう木々の葉 胸と腹に置いた両手が感じる 僕の呼吸と鼓動
火が灯るタバコを空にかざす
星から僕の姿は見えるだろうか
靴底を通して感じるぬかるみ
歩を進ませるたび わずかに滑り 耳に残る音をたてる
歩みを弛めること無く 汚れをかんがみること無く
深みへ
くるぶしから じきに膝まで
その頃には 進むも戻るもままならず ひたすら足を抜き そしてさらなる深みに
やがて 泥に埋没し
求めてやまぬ安寧をむかえる
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