|
|
2004年02月04日(水) ■ |
|
◆ 『二月大歌舞伎』(夜の部)團十郎、仁左衛門、玉三郎、三津五郎、時蔵、左團次、他 (04/02/07up) |
|
二月大歌舞伎「夜の部」を拝見しました。 今月の歌舞伎座は紅白の梅花で飾りつけられています。 夜の部は通常より開演が遅めで、終わったのは9時ちょっと前でした。全体に少し短めだったかな? その分、昼の部が長くなっているようです。 内容的にはどの演目も面白かったです!! ハッキリ申せば、お正月の公演より満足できました。
歌舞伎座に到着すると、まだ開場少し前。早めに来ているお客様が入口の脇あたりに並ばされていましたが、ずっと外で待つのはイヤでしたので、「一幕見席」用入口の奥(正面入口右側)にある、喫茶室「檜(ひのき)」で待ちました。 今まで知らなかったのですが、この喫茶室は開場時間になると、レジあたりに歌舞伎座係員が出てきて公演チケットを切り、そのまま館内に入場することが出来るんですね。 混雑を避け、スムースに入場することが出来て便利です。
河竹黙阿弥 作 【三人吉三巴白浪】 (四幕八場) (團十郎、仁左衛門、玉三郎、左團次、翫雀、七之助、吉弥)
今回は珍しく、両花道が用意されていました。(*上手と下手両方に花道あり) いきなり始まったメイン演目の黙阿弥 作『三人吉三巴白浪』は因果や義理が絡んだお話で、一見ややこしく、無関係のような登場人物同士が、実はそれぞれに深く関わりがある。 話が進むにつれ、謎が解決していくようなプロットが組まれていて、全く飽きずに楽しめます。 あっちこっち2重3重のエピソードが重なり、それが上手く最後までハマっていて、少し都合が良すぎる感じもしますが、それはそれで面白かったですね。 立ち回りや動きも派手な演目で、初心者でも筋書きを見なくてもついていけると思います。 それに華のある役者さん(團十郎、仁左衛門、玉三郎)の揃い踏みで見られるというのは有り難いこと。
親分肌の「和尚吉三」を演じた團十郎さんは、演目のせいか、ここ最近の見た中では一番元気良く感じられ、何度も演じてきたという大きさと余裕が見てとれました。悪党でありながら義理人情の厚いという「和尚」を好演。この役は今回8度目だそうです。 何の因果か、「血の盃」で誓いを交わした“三人の吉三”の一人「お坊吉三」に、親を殺められ、可愛い妹は知らぬこととはいえ双子同士で契りを交わしてしまったので、業の為、殺さなければいけない...。 色々な事実が「和尚吉三」に突きつけられ、苦悩しながら覚悟を決めて行動するその姿はズッシリきましたが、悲しい場面でもテンポがある作品なので、重くなり過ぎず良かったと思います。
元は武家の出で悪党ではなかったが、不幸な事件をきっかけに悪の道に染まってしまった若造「お坊吉三」を仁左衛門さんが演じくれました。 最初に登場した姿も、黒の着流しで現れたときも、ゾクッとするほど色気があり、颯爽ともしていて、仁左衛門さん特有のこのカッコよさは毎回楽しみで見たくなってしまいます。 最後に雪の降る中、屋根の上で大立ち回りをするのですが、高い屋根から隣の屋根に飛び移ったり、かなり激しい動きをこなされていて、殺陣の刀捌きの美しさにも圧倒されます。 捕手役のトンボを切る若衆達もかなり頑張っていて、アクロバティツクな中にも様式の兼ね備えた美しさがあり、大変見応えがありました。
「お嬢吉三」は初役という事でビックリしたのですが、玉三郎さんの新たな一面を見ることが出来ました。 「お嬢」は姿かたちが大変艶やかですが、実は男という役柄。それに盗みを生業にしている一応悪役なので、ドスをきかしたしゃべりもあるし、立ち回りも沢山ある。でも見た目は美しい娘にしか見えないという何とも面白い役です。 今回、色恋沙汰は出てきません。ひたすら小気味良く啖呵を切るところや、気持ちの良い台詞回しも楽しめます。(「月も朧に白魚の〜」とお馴染みの名台詞も序幕に出てきます)それに娘の衣装も大変美しかったですね。 しかし、大詰『本郷火の見櫓の場』のようなあんなに立ち回りをしている玉三郎さんを見たのは初めてかも...。
このお話、大変洒落ていて、後半は「お七趣向」も楽しめます。「櫓のお七」話で有名な、吉祥院の欄間(らんま)に隠れるところや、雪風景の櫓セットが出てきたり、「お嬢」が「お七」風な衣装で現れたり、元は八百屋の娘というエピソードなど...。 場面をもじったような趣向が所々に出てきます。
両花道は大詰めに『火の見櫓の場』の時に使われました。 「お坊吉三」が従来の下手側花道、「お嬢吉三」は上手側花道から登場。 二人は追われる身なので、むしろで顔を隠してゆっくりした歩みで登場します。 行き着く先は木戸の閉ざされた雪の降る江戸本郷の町。二人はそれぞれが木戸に挟まれ自由に逃げる事が出来ません。 この後、追っ手である捕手達との激しい大立ち回りになります。(動きが激しかったせいか、捕手役の一人の鬘が取れてしまいました。そのまま演技を続けていたけど...)
一月に休演となった左團次さんも「和尚吉三」の父「土左衛門伝吉」役で元気に復活され、それはもう味のある良い演技をなさっていました。 前回見た時の舞踊演目は、あまり気合が感じられず元気がないと思ったのですが、きっと具合が悪い中演じていたのでしょう。今回は大変素晴らしかったと思います。
七之助さんも初々しい娘「おとせ」を大変好演なさってました。 七之助さんは前より背が高くなった気がします。実は(契ってしまったが)双子の兄という設定の「十三郎」役、翫雀さんと並んだら頭ひとつ大きかったです。 話し方、歩き方、仕草など、とても色っぽかったですね。
《舞踊二作品》
『三人吉三巴白浪』の他には二つの舞踊演目が用意されていました。 「傾城もの」と江戸風でいなせな「祭りもの」という全く違った二つの作品を、休憩を間に挟まず、そのまま続けて上演というのは初めて見ます。 美術や鳴り物も異なりますので、果たしてどうのようになるのか興味深く鑑賞。
【仮初の傾城】 長唄囃子連中 (中村時蔵)
幕が開くとそこは江戸吉原の華やかな世界。紅色の壁、奥には大きな金色の襖、左側には、傾城が着用する紫の打ち掛けが、美しく掛かっています。 鳴り物は上手脇に並び、三味線の他にも笛や小太鼓、小鼓など音色の方も華やか。 奥の襖が開くと、うたた寝をしている傾城(時蔵さん)が前に押し出されて登場。 黒子が差し金を使い、背後で蝶がひらひらと飛び交っています。のんびりした優雅な始まり方ですね。 衣装が大変豪華で、大きな孔雀が刺繍された華麗なものですが正直とても重そう。 鬘も顔の近くの髪は結い上げられていて、後ろの鬢は腰までの垂らし髪になっていす。
踊りの方はとてもしっとりしたもので、動きは激しくありませんが、恋人からの手紙を読みながら相手を思う女心が、振りや仕草でよく伝わります。 傾城(花魁)という身の上は、相手が通ってくれない限り自由にも逢えないですし、相手の心変わりを心配する、女の心模様を艶やかに描いた作品でした。 途中、最初の打ち掛けから舞台上に飾られた紫の打ち掛けに変わるところがあり、目にも大変楽しませてもらいました。 踊りは、舞台の中央あたりで品良くゆったり踊る作品でしたので、上演時間はとても短かったですが、このくらいで調度いいと思いました。
【お祭り】 清元連中 (坂東三津五郎、他)
続いて『お祭り』ですが、これがもう粋で楽しい作品。 今回踊られる三津五郎さんのお家の芸とのことですし、踊りは特に素晴らしいと評判の方なので期待して見ました。 舞台転換はとても見事なもの。『傾城』は舞台前方を使っていたので、奥の襖が取り去られると祭りで賑わう江戸の町。脇のセットも一枚はがすと後ろに「お祭り」の美術が仕込まれています。 鳴り物連中は、大きな布で隠す形で総入れ替えしていました。このような転換を見せてくれるのはけっこう嬉しいことですね。
「お祭り」はとにかく面白い舞踊作品。山王祭が舞台で、ほろ酔い気味で登場したいなせな鳶頭は周りからも一目置かれる存在ということで、けんかに関してもその辺の若いものなど、軽く手玉に取るくらいのカッコイイ役です。その上、粋なユーモアも兼ね備えていて見ていて楽しいこと。 そして、三津五郎さんがとってもいいんです!! 踊りが本当に上手くて見惚れました。 序盤に客席から「待ってました!」との掛け声とそれに答える鳶頭。おかめ・ひょっとこのお面を被って踊るなど、お楽しみの部分もありますが、からみ相手として「若い者」が登場し、言いがかりをつけて飛び掛ってくるのを、軽くいなす三津五郎さんの踊りぶりが、とても晴れやかで気分がいい!
このように気風が良くてスッキリする出し物が最後というのは、気持ちよく劇場を後にできて良かったと思いますよ。 とても満足するプログラムでした。
|
|