きまぐれがき
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2003年03月03日(月) 怖〜いお雛さま

雛祭りの時期に祖母の家に行くと、手を繋いでまず連れて
行かれるのが、普段はあまり行ったことのない奥の座敷だった。
『見て欲しいの』と祖母がおごそかに襖をひくと、ぼんぼりの
薄明かりの中に浮かんで見えるのは、だんだん飾りで息を潜め
ているお雛さまたちだった。

戦争でどれも焼けてしまって、これだけが残ったというその
雛飾りは、祖母の祖母が子供の頃から大切にしていたものなので、
疎開先に預けていた為に、戦災に遭わずにすんだのだという。

祖母の祖母とは、いったい私からみたら何代さかのぼるのだ?
その人はいつの時代に生きていた人なのか?
明治か?大雑把に計算すると江戸末期かもしれない。
それにお雛さまを疎開?とは、どういうことだ?
祖母は、大空襲で焼け野原となった東京の空の下で、この戦争は
勝つはずがないと確信した、という話をよくしてくれた。
人間はB29が投下する焼夷弾から逃げまどっていたというのに、
雛は優雅に疎開先にいたのか?

『ねっ』と、うなずくように祖母が見渡す雛壇を見ると、確かに
時代を感じる色焼けした装束に身を包んだ、髪の毛の抜け落ちた官女、
顔の剥げた家来たちがこちらを見て笑っている。
そして、もうすぐ天井についてしまうようなてっぺんのお内裏さまの
女雛には、なんとなんと顔がなかったのだ。
疎開先から戻った時には、こうなってしまっていたらしい。
『この古いお雛さまに、現代風のお顔をつけてあげても、合わないから』
そのままなのだという。

家に帰って母に話すと『そうよ、小さい頃あのお雛さまを見て、あなた
怖がって泣いてヒキツケを起こしたのよ』と言った。


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