きまぐれがき
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2003年03月06日(木) F君

中学時代のクラスメートだったF君が、富士山の裾野にある
「種豚センター」というようなところで働いていると訊いたのは、
中学を卒業してから7・8年が経った頃のクラス会でだった。

種豚センターとは、消費者に安全で上質な豚肉を提供すべく、
品種の改良などを行なう所らしいが詳しくは知らない。
F君はそこで生まれた豚が、食肉になるために売られて行くまでの
世話をしているのだという。

豚が、どんなに可愛いかという話をし、別れの時はそりゃぁ辛い、
豚も自分の運命を察するんだ、と言った。

親のように成長を見守り、立派に大きく育て上げたところで手放すのだ。
それに豚の行き先は、未来を望めない屠殺場だ。
限りある短い命の傍での日々は、仕事とはいえどんなに心痛むことだろう。

スポーツマンで、いつも明るく爽やかで、休み時間にはちょこんと机に
腰掛け、面白い話をしては取り巻く女の子たちを笑わせていたF君は
おばあちゃんとの二人暮しだった。
そのおばあちゃんは高校の時に亡くなり、F君は天涯孤独になったと
やはりクラスメートの一人から訊いていた。

誰かの『ドナドナドナの世界だね』と言う声に、F君は相変わらず
爽やかに笑った。
そんなF君の笑顔を見ていたら、中学時代ダイナミックなテニスの
プレーで他校の女生徒までも熱狂させた勇姿と、富士山を背景に、
遠くに去って行く豚を見送るF君の姿とが、目の前を交互に浮かんでは
消えて行った。
その途端、どうしたのだろう。私の心は、涙の雨でザァザァ降りと
なってしまったのだ。

そしてこの日から、豚肉を食べることができなくなった。



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