きまぐれがき
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作家の黒岩重吾氏が亡くなられた。
氏の作品では古代史をあつかったものが好きだった。 歴史の授業で退屈きまわりなかった古代史の世界が、氏の著書 『天の川の太陽』『天翔る白日』『落日の王子・蘇我入鹿』などに よってぐんと身近に感じることができた。
ハムレットのように文武にすぐれた見目麗しい王子が古代日本に もいた。 その王子が悲劇的な死を遂げたとあっては、王子さまが大好きな 私としては読まずにいられるかと、最初に手にしたのが『天翔る 白日』だった。
陰謀渦巻く古代宮廷で、謀反の罪によって持統天皇に処刑された 大津皇子の物語だ。 濡れ衣であったにもかかわらず潔く散った薄幸の皇子と、氏や 歴史家たちは伝える。
ニ人行けど行き過ぎ難き秋山をいかにか君が独り越ゆらむ
と詠んだ大伯皇女の歌は、弟大津皇子との最後の別れを歌ったもの だと知られているけれど、こんなふうに短い生涯を閉じた弟への哀歌 なのだと、はじめてひめみこの心情が切々と胸に迫ってきたものだ。
ところが、「まぐわう」という言葉には途惑った。困ってしまった。 なんだか可笑しいのだ。 時は古代だもの、適切な言葉だと言われれば、そりゃあそうなんだけど。
奈良盆地から眺める夕陽は、大津皇子が眠る二上山に沈む。 美しい落陽の光の彼方に逝かれた黒岩氏に合掌。
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