きまぐれがき
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ある日。
新国立劇場のある初台から渋谷に出るにも、さっぱり方向がわか らず、Sちゃんの後をひたすらくっついて行くだけ。
かつて通勤時の乗り換え駅にしていた渋谷も、当時とは見事に変貌 をとげていて、今私はどの辺りを歩いているの?状態。 もう歩きたくない。はやくご飯を食べたい。 ちょうど目の前のエレベターに乗り込んで、「ここは何処?」とSちゃん に訊ねると、なんとかホテル東急なのだという。
早く早くと、和食のお店でお懐石に舌鼓。 二人とも運ばれてくるお料理にお箸をつけるたびごとに、顔と顔を 見合わせ美味しいねと言い合っていると、なぜか笑いが込み上げ てきた。
「箱根強羅ホテル」は、井上ひさしの頭の中に詰まっている膨大 な資料の中から練りに練られたホンに仕上がってるねと、観て来 たばかりの舞台の話をしつつ、私は、器の後ろをひっくり返して、 窯とか作者とかを知りたいのを必死でこらえる。 「みっともない!」と一喝されるだけだもんね。
会計の時に「このテーブル、この後、予約が入っているのよね」 なんて、よせばいいのに呟いてしまうと、お店の人があわてて来ら れて「アチャー。そんなことを係りの者が言ってしまったのですか。 アチャー」というような顔をされて、エレベター前で見送って下さ る最後までアチャー(>_<)アチャー(>_<)と頭をさげていらした。 あれ?呟いちゃいけないことだったかしら?
東横線で横浜に帰るSちゃんにそのままついて行って、自由ヶ丘で 乗り換えれば実家だよぉ〜、よっぽど行ってしまおうかとも思ったけれ ど、今は兄家族の家、「よく同じ舞台を何度でも観ることができるわね」 なんて義姉にヒニクを言われるのがわかっているので、やっぱり避け てしまった。
Sちゃんに半蔵門線の乗り場まで送ってもらって、ホテルにたどり 着いたけれど、路線地図を見ながらじゃないと出歩けない東京。 故郷ともいえない。。と、ちょっと寂しい気持ち。
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