きまぐれがき
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以前、ひょいと我が家の庭を覗き込んだお隣のお爺さんは 「ろくな木がない。。」とつぶやいて帰って行った。
子供の頃に住んでいた西荻には、雑木林が何箇所もあった。 道の両側に並ぶ地元の農家のけやきはどれも巨大で、覆い かぶさるように枝葉のトンネルをつくっていた。 そこは昼でも暗く、風に揺れてすれる葉の音が怖くて一人で は通ることができなかった。 一本杉の丘に登って周りを見渡すと、まだまだ武蔵野の面影 を色濃く残す景色が広がっていた。
雑木林の中に建つ三角屋根の家。 屋根裏部屋らしい窓の鎧戸が時々開いていて、オレンジ色の 灯りがぼんやりとともっていた。 あのガラスのランタンはアールヌーボー調だったと、今だから わかることだ。 秋、散り落ちた雑木の木の葉をガサゴソとふみしめて歩く門 からのアプローチ。 空にはジーキィジーキィと鳴く鳥が飛んでいた。 善福寺池の傍にこの家はたしかにあった。
場所は違っても、子供の頃に見たあの家を再現したい。 と思ったところで、あれは広い敷地があってこそなのだと諦め ざるを得なくて、家を建てた時に数本の雑木だけを植えたのだ。 雑木の庭なのだから、ろくな木はないのよ。お隣のおじいちゃま。
それでも、年に2回は植木屋さんに整えてもらう。 今日繁った枝葉の中からの見つけ物はまたまた鳥の巣、几帳面 に作られているので鳩の巣ではなさそうだ。それと蜂の巣。
鳥の巣を取り払うことに胸が痛まないではないけれど、いつの 間にか我が家の庭を繁殖場とした鳩たちには困ってしまったの で、卵を産まないうちにこの巣はなかったことにしてもらいたい。
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