罅割れた翡翠の映す影
目次|過去は過去|過去なのに未来
蝶が私の夢を見ているのか。 私が蝶の夢を見ているのか。
無茶苦茶ダウナー系になっている時には女優して絶対わからんようにしていると思ってるんだけど、偶然は怖い。
何故か音信不通の友人からの連絡が急に増えた。 近況報告なんかしていると、それこそ女優パワー全開にせんと耐えられそうもない。 コワレちまいそうだわよ。
今年に入って虫垂炎になった。 一ヶ月放置プレイしたら死ぬ程悪化した。 病院に入院させられて(それこそイヤ)、更に一ヵ月半入院。 無茶苦茶に化膿していて壊死した組織の切除を毎日。 だから毎日サドい外科医の御尊顔を拝見させられる羽目に。 最初の頃なんかオールウェイズ40℃オーバーの体温。 いっそさっくり殺って欲しかったわ。 解熱剤打つと滝汗出るの。 しかも寝てる間に効果切れるから眠れない。 眠剤も効果無し、だって熱くて痛いんだもん。 こういう時に限って痛覚オフに出来ない。 カテーテルが変な所を刺激して激痛。 そんな時に限って連休で処置出来るサド外科医が居ない。
処置(ヤな響き)の時は必要以上の人間が動けない僕を取り囲む。 イヤだと言っても押え付けて痛い事をする。 痛いと言っても止めてと言っても笑ったまま。 久々に意識がふっとんだ。
・・・身体が動かねぇ。 一ヶ月放置プレイと入院の所為で身体が萎えてやがる。 効かねぇ薬なんかの所為で余計に痛ぇ。 済まん、無理だ。 痛ぇもんはやっぱ痛ぇわ。
・・・誰も暴れてとは言ってない・・・。
もう一つ、病気が見つかった。 ちょっと致命的だった。 まぁもうちょっとは健康なフリして暮らせるけど。
寂しかった。 仕事、したかった。 皆に、会いたかった。
『母さん』が泣いていた。 「ごめんね」って言うしかなかった。 少しでも大丈夫に聞こえる様にしたかったけど、身体が喋る事さえマトモにさせてくれなかった。 余計に心配させてしまったのか、いつもは気丈な『母さん』が、叫んでいた。
ごめんね。 その涙がミノルに対するモノだとしても。 この結果は僕の所為だから。 ありがとう。 ごめんね。
一方で喜んでる僕が居る。 やっと、連れて行ってくれる。 今迄、どんなに望んでも逝けなかった場所へ。 ありがとう。
一方で悩んでる僕が居る。 彼は僕に寄り添う影に気付いた。 逝かせないと言ってくれた。 ごめんね。
取り敢えず通院になって職場にも復帰して五月からまともに働ける。 そんな時に、奴らから連絡が来る。 誰も居ない個室病棟での呟きでも聴かれたんだろーか。
ああ、嬉しいさ、おくびにも出さないが嬉しいさ。 薄情で人畜有害で本心なんて一切明かさない秘密主義の僕にいちいち連絡寄越してくるなんて、
・・・死んでもいい位嬉しいのさ。
夢だって構わない。 寧ろ今も未だあの病院のベッドや救急車の中で意識不明になっている間の走馬灯であっても構いはしない。 こんなに嬉しいから、余計にこれが夢だろうって思うんだ。
この夢はまだ続くのかな。 続いてる間にやっておきたい事は幾つかある。 せめて、偽者でも笑顔で送らせて。
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