明媚切断フライト。
春の嵐が吹き荒れたあの日。 自らもまるで春の嵐であるかのように貴方は私の前に現れた。 晩夏の台風が過ぎ去ったあの日。 台風一過で飛び去った雲のように貴方は私の前から消えた。 ひどく僅かな日々を思えばそのあまりの儚さに心許無くなる。 にも拘らず不意に掴んだ思いが確かに強い手応えを返す。 重ねた時間の多少と重ねた思いの多少とが相寄らずにいた。 其のことに気付かされたのは偶然だと思えた。 あの日少しだけ語られた言葉はいつか流れてしまった。 自分を捨てた貴方が最後に残したものは私に預けられていた。 繫がることを信じたのではない。 繋がることはないと信じ切れないだけだった。 一度掴んだ手応えはいつまでも消えず其処に在った。 私に預けられたものを育てることが必要だった。 あの日が消えないように。 あの日の私と貴方が忘れないように。 あの思いが消えないように。 あの思いを忘れないように。 次に吹く強い風が幾つかの答を運んで来るだろう。 そして同時にそれは幾つかの答を運んで行くのだろう。 あの日のように。 |
零と壱の綴れ織。 | ||
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