本屋で、non-noを手に取り、めくってみた。 私は普段non-noを読まないし、今日だって雑誌の中身が見たかったんじゃない。 あるモデルがどんなだか見たかった。 モデルの名前は田中美保。 彼が留学中に4日間だけ付き合った女の子が、彼女に似ているらしい。 電車の中でnon-noの車内広告を見かけるたび、 隣に座った女の子がnon-noを読んでいるたび、 私は目をそらし続けてきた。 今日に限って、どうしてわざわざ見る気になったのか、自分でもちっとも分からない。 ページをめくるたび、1ページごとに鼓動が早くなって、胸がしめつけられていく。 それでも私の手はめくることをやめない。 見たいけど、見たくない。見たくないけど、見たい。 「田中美保ってモデル知ってる?」 「うん、知ってるよ。non-noでモデルやってる人でしょ」 「そうそう、田中美保ってかわいくない!?」 「うーん、名前は分かるけど顔は分かんないや。どうしていきなりそんなこと言い出したの?」 「いや、友だちの部屋でnon-no見たからさ」 この会話は、彼が浮気のことを言い出す前、おそらくその4日間の前後に、私としたものだ。 彼はバカだ。 だまっていれば分からないのに、その子のかけらを私の中にちょっとずつ落としてしまう。 「ビクトリアって知ってる?」 「うん、知ってるよ。あの王朝があったとこでしょ?」 「そうそう、あそこの景色がすごいきれいなんだって。 大学の女友達が言ってた。カナダにあるんだけど、 ワシントン州(彼は今アメリカに留学しているのです)から近いから、 行こうと思っててさ。」 その会話だって、よくよく聞いてみたら、 彼がその子と行こうとしていた旅行先がビクトリアだったのだ。 本当にバカ。大バカ者。 話をしているうちにその子の本名をポロッと言ってしまったり、 誰に似ているだの誕生日がいつだの身長体重がいくつだの、 いらないことばっかり私に教えようとする。 そのいらないことは、私の中でその子の存在がどんどん実体化させていく。 そして、わずかな時間でも、私以外に彼がいっしょにいた女の子がいるということを苦いくらいに実感させる。 今日、自分の手で、またひとつその子を現実の人物に仕立ててしまったのは自分。 雑誌の中で見つけた田中美保。 ぱっちりした目に、明るくて活発そうな笑顔。華奢な体。 それに加えて彼の田中美保は背が147センチで田中美保より小さいのだから、 さぞかしかわいいんだろうなぁと思ってしまった。 ふーん、ふーん、って、ひたすらふーんって思うことしかできなかった。 そして私は少し乱暴に雑誌を閉じて、棚に戻した。
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