NORI-☆
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朝の訪問者
明け方サトシのトイレに付き合ってから なぜか目が冴えて眠れなくなってしまったというパパ、 寝るのをあきらめて「一人で起きてる早朝」 を楽しむ(?)ことにしたらしい。。 朝だよ〜とママを起こしてくれたときには 家中の窓とついでに玄関のドアまで開けて、 初秋の朝風で家の中を爽やかにしてくれていた。 「えっ、洗濯してくれてるの〜? 昨日少なかったからいいやと思ってたのに…」 「今日は洗濯日和って天気予報が言ってたから…」 あらら…それはどうも……(^^;) パパがすっきり目覚めて活動的にしていると、 なんとなく家中がいい感じである。 …とはいえ、子供たちの朝の身支度や朝食は いくら風が爽やかでもそうさくさくとはいかないもので、 例のごとく騒がしく慌しい食卓の時間が終わると、 案外早くもない時間となってしまっていた。 ようやく“いってらっしゃーい!”と パパと子供たちを送り出して、ママも片付けと身支度。 寝室のクローゼットと洗面所を往復しながら、 着替えとお化粧を済ませる。 さて、出かけよう、と玄関を出て、鍵穴に鍵を挿し込む。 ………? ふと気配を感じて、鍵を挿したまま手を止め、 玄関わきの寝室の窓を見る。 (あ、窓開けっ放しだ…閉めなくちゃ) と思ってドアを開けて中に入ろうとしつつ、 今認識したのがそれだけではなかったような気がして 再び窓を見る。 …えええっ!!?? アルミの格子の隙間から、じっとこちらを見ている 灰緑色のまあるい瞳。 ……猫だ! もちろん、我が家では猫は飼っていない。 しかし、窓枠にちょこんと座った猫は、 確かに窓の格子の内側から、網戸を通して 私をじっと見つめているのである。 なんで猫ちゃんがうちの中にいるのぉ〜〜っ?! しかも家人たる私がドアの外に立っているのに、だ! いつの間に入ってきたんだろう? どこの猫だろう? なんで今まで気が付かなかったんだろう? 疑問符が駆け巡る真っ白な頭を抱えた私が 最初にしたことは、バッグから携帯電話を出して パパを呼び出すことだった。 「…もしもし?」 「猫がいるの!」 「は?」 「うちの中に猫がいるのっ! 出かけようとして気がついたの! 寝室の窓のところに座ってるのっ!」 窓辺の猫に目が釘付けのまま、 ささやき声でまくし立てる。 しかし、パパは全く驚かなかった。 「……どこ?寝室?……やっぱり!」 “やっぱり”?? ああ、そういえば、朝食のとき、 ふと廊下に目をやったパパが、 「あれ、今何か影が……」 って言ったっけ。 「そうそう。やっぱりあれは猫だったんだ。 目の錯覚じゃなかったんだ。そっかそっか」 満足そうな声である。 なるほど、そうか、玄関開いてたから入ってきたのね、 で、それをパパが見たんだぁ…… …って、感心してる場合じゃないのよぉ 猫ちゃん家に残してでかけられないじゃない。 私はいったいどうしたらいいの? 猫があまりにも平然としているので、 携帯片手に、そっと外から網戸を動かしてみる。 猫は一瞬「ん?なに?」という顔をしたけれど、 網戸が少し開くと首を伸ばして、 幅10センチほどの格子の間から優美な頭を出してきた。 窓の外は花台になっていて、 サマーキャンドルやゼラニウム、ランタナなどの 花鉢が置いてある。 そっか、猫って格子の隙間からでも出られるんだ。 そのまま出てきてくれれば安心なんだけどな… しかし固唾を飲んで見守っている私を尻目に、 猫は首を伸ばしてオレンジのサマーキャンドルを クン、とかいだだけで、そのまま動かない。 よそのうちに来ているとか、知らない人と対峙しているとか そういう緊張は全然ないらしい。 「別に出かける予定ないんだけどぉ?」 とでも言うように私を見上げる。 いや、でもね、君はよくても、 私は君を閉じ込めて出かけるわけにはいかないしさ… 家の人も心配してるでしょうよ? しばし見詰め合った後、猫はおもむろに立ち上がり、 するりとしなやかに格子を抜け出てきて 花鉢の後に座りなおした。 ほっとしつつ、そぉっと手を伸ばして網戸を再び閉め、 さらにサッシをそろそろと閉める。 猫は自分のお尻をかすめて窓が閉まるのを 落ち着き払って眺めながら、全く動かない。 「窓開けたら出てきた……うん、窓閉めた。 今?花台に座ってこっち見てる。 うーん、帰る気ないみたいだけど、 …とりあえず、大丈夫。じゃあ、私もでかけるわ…」 家から出てきてさえくれれば、とりあえず一安心である。 電話を切って、猫と向き合う。 こういう体色をブルーというのかな。 つやのある濃いグレーの、ほんとにきれいな毛並み。 大きな丸い目をしたハンサムな猫である。 背中をなでるとすべすべで気持ちいい。 首にピンクのエナメルの首輪がついている。 きっと、大切に育てられているんだろうなぁ… 飼ったことがないので、扱いにはあまり自信がないものの、 猫という動物は、実は大好きなのだ。 いくら眺めていても飽きない。その姿が好き。 しかも、こんな美しい立派な猫ちゃんならなおさら。 名残惜しいけれど、出勤の時間が迫っている。 (というかもうとっくに過ぎている) 「じゃあ、行くから。 そこにいてもいいけど、お花をかじらないでね。 気をつけて帰ってね」 落ち着き払った優雅な猫に、 なんとなくへどもどと声をかけて、 ついに我が家を後にした。 …たぶん、あれは503号室の猫。 うちは角部屋なので、 4軒のドアの前を通り過ぎるのだけれど、 その途中で何度か、 やはり同じように窓枠に座って 網戸越しにこちらを見ているのを見かけたことがある。 “そのまま居着いちゃったりしてね…” 昼にパパから来たメールを読んで、 そうだったら楽しいのに、と思った。 居着かないまでも、 ときどき遊びに来てくれたらいいのにな。 最初みたときは「なぜっ???」という衝撃で 呆然としてしまったけれど、 こんな「事件」ならちょくちょくあってもかまわない。 …それにしても、 いったいどこに隠れていたんだろう? 今度会ったらぜひきいてみたいものである。
2001年09月18日(火)
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