baby poem
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冬の真昼のうすい光 街角で 頭の中は、真っ白です
僕は真っ白の中に 音を失って 真っ白の中に 黒い点が見えます
黒い点は、しだいに広がっていきます 黒い点が、広がって 黒い点に、吸い込まれた
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犬が吠えているのが聞えます 砂利道を歩く音が聞えます 真っ黒の中で、僕は 木々の気配に押し出されるように あわてて歩いているのです
僕は、うすぼんやりと浮かんでいる 白い坂を見つけます よかった 急な勾配を、白い地面をたよりに 急ぎ足でのぼっていきます この坂の上には 黒澤さんの家があるのです
あの家で、僕は、黒澤さんと、たくさんの話をしました ほとんどは、黒澤さんのとまらない話を聞いているばか りでしたが、調子にのったような、黒澤さんの昔話を聞 くことは、あのころの僕にとって、たぶん、必要なこと でした つまりは、歴史を、ひとつ。
それから、あの家の、しんしんと冷える夜に、僕は、父 の夢を見ました 夢の中で、父は、ふたごで、それぞれ の物語を、当たり前のように、くりかえします それで、歴史を、またふたつ。
こうして僕は、歳をかさねて、街へ降りてきた はずなのに
真っ黒の中 ようやく、黒澤さんの家が見えてきた よかった 湿った草地を はしりよる 夜露 土のにおい かびのにおい 玄関のドア 開けて
黒から白 白い 光 光 光 白い白い 光
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冬の真昼のうすい光 街角で、僕は 透明な光と透明な闇が 人々の顔にかさなって 明滅していることに 気づきます 僕は不透明な灰色を ぺろっ、とはきだします ・・
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