mortals note
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8.
肩や腕がぶつかる。わずかに出来た隙間をすり抜けるのに、カイは必死になっている。 買出しに来たときとは比べものにならない人の多さに眩暈がしそうだ。 聖都は今、大祭の只中にある。大通りでは、道の両端のいたるところに露店がならび、たくさんの食べ物の匂いが混ざり合っていた。 エバート祭は終盤にさしかかっていた。これから、正午の鐘とともに行われる儀式がこの祭のクライマックスになる。 今年選ばれたラインの乙女たちを神殿へ導くパレードのようなものだ。カイたちは分散して聖都にひそみ、巫女たちをヴォーデンから奪う手筈になっている。 チャンスは一度。行列が、巨大な噴水をその中心に抱く中央広場に差し掛かった瞬間だ。 腰のあたりをちょろちょろと駆け回る子どもを避けながら、カイは今回の相棒であるスコルと共に、中央広場を目指していた。
―――あまり賢いやりかたではないな。 はじめこの計画は、フレイヤにすげなく却下された。 ラインの乙女とて、神殿に入れられてすぐに殺されてしまうわけではない。この間城下で起こした仲間奪還の騒ぎもある。ヴォーデン暗殺の手筈が整いつつある今、これ以上自分たちに対する警戒心を強めたくはない。 フレイヤのいい分が至極もっともなのは、カイにも分かる。しかし、カイはどうしても引き下がることが出来なかった。 リーグが言っていた。大義のために要らない枝葉を切るんじゃ、帝国と同じだと。これがたとえ自己満足だとしても、手を伸ばせば掴めるものを捨てていくなんて、俺には出来ない。 意固地になっている自分に気付いていながらも、どうしても一歩も譲れなかった。 ―――あながち、無益でもないかもしれません。 助け舟を出したのは、トールだった。 我々の目的は何も、皇帝暗殺だけで達成されるものではない。戦をやめさせるためには民衆の力も必要になる。聖都は前線からはあまりに遠いから、差し迫った危機感を抱いているものは少ない。聖都の中央、しかも祭の最中に騒ぎが起これば、彼らも少しは危機感を覚えるかもしれない。 しかもこの戦の大義名分は、大陸の統一であり、布教のための聖戦でもある。ブリガンディアで生まれ育ったものならばいざ知らず、改宗を迫られた移民たちにとっては屈辱的な祭のはずだ。力で圧倒され、仕方なく従ってきた彼らにも、改宗したからといって決して安全ではないということが分かり始めているはずだ。 今揺さぶりをかけてみるのも、決して無駄ではないだろう。 有無を言わさぬ勢いでまくし立てるトールに、フレイヤも渋々ながら首を縦に振ったのだった。 ―――姫の立場も分かってあげてくれ。 フレイヤの部屋を辞し、扉を閉めたあとで、トールはカイに言った。 ―――何も姫も、巫女達が殺されてかまわないと思っているわけじゃないんだ。上に立つ人間は、それこそ枝葉のために全体を考える必要がある。
(これは、俺のわがままだ) 正義感を隠れ蓑にした、個人的な復讐だ。そんな後ろめたさがあったからこそ、自分からはフレイヤにごり押しが出来なかった。 今回は戦うわけではない。パフォーマンスのひとつだ。娘達を奪還して逃げるだけだ。 祭にうかれて警備は手薄だし、人ごみにまぎれればこの間のように逃げられる。 軍の主力は前線だし、聖都には鎧ばかりが華美な近衛兵しか残っていないはずだ。 きっとうまくいく。 カイは先程から何度も自分に言い聞かせている。それでも鼓動はせわしなく落ち着かない。
「カイはどうして”ここ”に入ったんだ?」 「え?」 やわらかい問いかけに、カイは肩越しに振り返った。半歩後ろを歩いていたスコルが、大股にカイの隣にならぶ。 スコルは人好きのする穏やかな微笑をうかべている。 彼は小柄だが、ナイフの名手らしい。いつもは前へ出てくることはなくカイとの接点もほとんどなかった。カイはすこしばかり違和感を感じている。それほど人見知りをするわけではないのに、うまくかみ合わない何かがある。 「俺は成り行きみたいなもんだから。あんたは?」 「僕はリーグと同じ村の生まれだ」 スコルは目を伏せて笑った。 「何とか逃げ延びて、リーグに拾ってもらったんだ」 相槌をうつことも出来なかった。リーグの村は見せしめのために奇襲を受けたのではなかったか。それでは彼は、虐殺の生き残りというわけだ。 「悪い、変なこと聞いて」 「別に変なことじゃないさ。それに、あの日の出来事は僕の生きる糧になっている。生き残ったからには、しなければならないことがあるんだ」 スコルは、うつむくカイの肩を労わるように叩いた。 そのとき。 鐘が鳴り出した。腹のそこに響くような巨大な音は、王宮内部にある神殿のものだ。 ふたりは顔を上げ、王宮の方角を見上げる。 「そろそろ時間だ。行こう」 妙に熱っぽい目をして、スコルは早足に歩き出した。
*
色とりどりの紙吹雪が舞う。 大通りはいまや熱狂の渦に飲み込まれていた。 顔を隠した白い法衣の神官たちに先導され、黄金の装飾を施されたうつくしい輿が、列を作って進んでゆく。 人ごみの中で息を殺しながら、カイはその行列が迫ってくるのを見つめていた。 いくら沿道を美しく飾っても、花や紙吹雪を撒き散らしても、黄金の輿に乗せても。娘達には何も見えない。 (エスリンもあんなふうに) 見せ掛けの彩りに飾られて、この道を運ばれたのだろうか。 豪奢な輿には布が張られ、中は見えない。 祭事用の槍を高く掲げた神官たちが、緩やかな坂をのぼって近づいてくる。あの槍や法衣は装飾が多く重いのだとトールに聞いた。追いかけるには邪魔になるだろう。 すばやくあたりを見回す。目立つ兵士の姿はない。 向かい側にリーグを見つけた。お互いに無言で頷きあう。 一団は今、広場の入り口に差し掛かっている。先頭の輿が中央の噴水に差し掛かったときが、仕掛けるタイミングだ。 人々の歓声が、まるで膜をへだてた向こう側のように遠い。 木々のざわめきが聞こえた。 渡る風に、おおぶりの枝を、びっしりと生やした葉を揺らす音だ。 木漏れ日がおちてくるほうを見上げて、太陽のまぶしさを問うた妹の笑い声。そんな昔のことばかり、くるりくるりと傍を回る。 極彩色のただなかに在るのに、現実はすべて空々しい。 あの頃のように胸をみたす幸福感を、カイは戦が始まってから感じたことがない。 絵空事だ。 槍を高く掲げ、まぶしく飾り立てられた輿が目の前を通り過ぎる。 人ごみの中で、ちらちらと見慣れた顔が動き出した。時間だ。 「やっと……!」 駆け出す間際、感極まったスコルの声を聞いたような気がした。が、立ち止まるわけには行かない。 歓声が、悲鳴に変わった。 最後尾の輿が地面に崩れ落ちるのを視界の端に見ながら、カイは目の前の神官に体当たりを食らわせた。金属で装飾を施された法衣が、ぐしゃりと言う音を立てて地面に転がる。 輿を担ぐ男どもが戸惑い、立ち止まる。カイが腰からナイフを抜くと、魔法が解けたように慌てて輿を地面に下ろした。布に覆われた内側から、女のかすかな悲鳴が聞こえる。 広場は混乱の坩堝だった。逃げ惑う人々が右往左往する所為で、上を下への大騒ぎだ。都合がいい。 重い法衣を引きずるように向かってくる神官たちの間をすり抜け、カイは輿に駆け寄った。引きちぎるように布をめくりあげる。 中に座っていた娘が、音に導かれるようにカイのほうを見た。 「おまえ……」 かろやかな笑い声がはじけるように蘇る。 見慣れぬ菓子を前に戸惑うカイを笑った、高く朗らかな声だ。 雑貨屋のむすめが、何故ここにいる。 「誰?」 しかし、少女の見開かれた瞳に、光はない。声を頼りにこちらを探るその動きには、見覚えがありすぎる。エスリンと一緒だ。 あの雑貨屋の娘ではないのか。 「いいから、来い!」 戸惑いを振り切って、カイは美しく着飾った娘の腕を取った。混乱に乗じて逃げなければならないのだ。 こわばる娘の腕を強引に引いて、カイは外に連れ出そうとする。 「離して!」 けれども少女は鋭い声でカイを拒んだ。 「俺は君を助けに来ただけだ! ラインの乙女なんて、狂ってる!」 「そんなの分かってるわ! わたしの邪魔をしないで!」 愕然と、カイは少女を見下ろした。光のない瞳で、それでも憎しみを込めて、少女は会を睨みつけている。 「どういう、ことだ……?」 「そこまでだ! 動くな反逆者ども!」 朗と響く声に、カイは輿から顔を上げた。 ぞっと全身が恐怖に震えた。 周囲をぐるりと白い鎧が取り囲んでいる。神官の法衣ではない、近衛兵の黄金の鎧でもない。白銀のそれは、正規軍のものだ。 何故今ここに正規軍がいるのだ。祭事の警備はすべて、近衛兵に任されているのではないのか。 「謀反人どもを殺せ!」 まだ若い張りのある声に、輿の内側で少女がふるえた。 隊を仕切っているらしいその声の主はまだ若い。カイと同じぐらいの青年だった。将校用の鎧をきっちりと着こみ、整った顔には潔癖でかたくなな熱をたたえている。 「ルスラン……?」 少女があえぐ。 その震える声で、カイはようやく自分を取り戻した。 雄たけびを上げ、剣を振り上げて迫ってくる兵士を、その危機感をようやく体が理解したのだ。 「こっちだ!」 「いや、離して!」 呆然としている少女の腕を掴み、カイは強引に輿から引きずり出した。 剣を振り上げる兵士の懐に飛び込み、突き飛ばす。たたらを踏んで仰向けに転がった兵士の向こうに、こぼれそうなほどに目を見開く将校の顔が見えた。 「エデ―――!」 血を吐くような彼の絶叫に、少女が弾かれたように振り返る。しかしその瞳は何かを求めてさまようものの、像をむすぶことはない。 「くそっ……!」 知らず、悪態が落ちた。美しい大通りはいまや、地獄と化している。紙吹雪や花びらは、流れた血に浸され、無残に踏みにじられた。 逃げ惑う人々の波に紛れ、カイは少女の手を引いて走る。仲間達の無事を確認する暇はない。合流地点へ急ぐしかない。 少女はすっかりとおとなしくなっていた。自失しているようにも思える。彼女とあの将校は知り合いだったのだろうか。 しかし、彼女の心情を慮っている余裕はなかった。 何故だ。 何故正規軍の小隊がここにいる。何故ばれた。 トールの計画は綿密だった。仲間達はばらばらに聖都に入り、パレードが始まるまで一切かかわらなかった。どう見ても普通の観光者だったはずだ。 (誰かが密告でもしなきゃ、バレるはずなんてなかったのに) 稲妻に打たれたように、カイの足が一瞬とまった。少女の体が背にぶつかる。 「どうかしたの」 怯えながら、少女が問いかけてくる。 「いや、悪い。なんでもないんだ」 少女の目が見えていたら、それがごまかしだと気づいたに違いない。体中から血の気が失せてゆくのがわかる。思わず右手で口元を覆った。 誰か、内通者がいるのか。 思い当たってしまったら、そうとしか考えられなくなった。 正規軍がいたのは偶然だとしても、中央広場にあれだけの数が配置されていたのはどう考えてもおかしい。 作戦の内容は安全のためにも、実行犯たちにしか教えられていなかったのだ。どこで仕掛けるかはおろか、具体的な作戦自体知らぬものも多い。 「乱暴に連れ出して悪かったよ、でも今はついてきてくれ。合流するまでは、俺が守るから」 つないだ手を強く握る。かすかに握り返す気配に、カイは考えるのをやめた。 彼女を安全な場所に連れて逃げなくては。 まずは聖都を出なくてはならない。
9.
「カイ……!」 逞しい腕がカイを抱き寄せた。ほっと全身の力が抜ける。同時に血の匂いに何も入っていない胃が締め付けられた。 「リーグ、無事だったんだ」 「そりゃあこっちの台詞だ! 心配させやがって」 「みんなは?」 絞め殺さんばかりのリーグの腕から何とか逃れ、カイは周囲を見回した。合流地点の手前の森の中だった。 作戦が成功だろうと失敗だろうと、フィヤラルの祭壇で合流する手筈だった。 リーグは唇を捻じ曲げて、ゆるく首を横に振った。 「おまえだって気づいてるだろ、どっかから情報が漏れてるんだ。祠に行ったら袋のネズミだ。先に合流できた奴らはトールが連れて逃げた。俺はおまえを待ってたんだ。城下に戻る」 「城下って、大丈夫なのか?」 「移民たちが匿ってくれるそうだ」 「移民が……」 「俺たちがやってきたことは、全部が全部無駄だったわけじゃないってことだ。しばらくはバラバラに逃れることになるが」 「じゃあ城は……姫はどうなるんだ!」 「姫はあそこを動くわけにはいかない」 「でも……!」 「逃げたら! 俺達とつながってたことを認めるってことだぞ! あのひとだって馬鹿じゃない、それに皇位継承権も持ってる。敵方もうかつに手は出せないさ。ブリュンヒルドも近くにいる。変な意地を張ってみんな捕まっちまったら全部が終わりだ!」 強い力で両肩を押さえつけられた。なだめるというよりも押さえ込むその力づよさに、カイは咽喉元まで出かかった不満を飲み込んだ。リーグとて、喜んで城を放棄するわけではないのだ。 「……分かった」 「そっちのお嬢さんは巫女さんか」 がっくりと落とされるカイの肩を叩いてから、リーグは少女に顔を向けた。 「あなたたち、ドラゴンバスターね」 凛と通る声に、カイは体をねじって振り返る。 まっすぐに、少女と目が合った。 「おまえ、目……」 意志の強い瞳は、揺るがずに二人を捕らえている。盲目のものとは思えない。 「どうやら仲良く手に手をとって、っていうわけにもいかないみてぇだな」 嘆息するリーグの傍らでカイは、明らかな敵意に戸惑った。 「あなたたちが邪魔さえしなければ、今頃わたしは……」 邪魔をしないで、と。彼女は広場でも言っていた。 「なりたかったとでも言うのかよ」 何かがぐっと腹の底からこみ上げてきた。熱い、衝動が。 「ラインの乙女なんて、あんなもんになりたかったって言うのかよ!」 「そうよ! 巫女になれば王宮の中に入れるもの! そうしたら……」 言いかけて、少女は慌てて口をつぐんだ。気まずそうに二人から視線を逃がす。 「待て。こんなとこでいつまでもうろうろしてるわけにはいかねぇだろ。嬢ちゃん、あんたにどんな思惑があったのかは知らねぇが、邪魔したんなら悪かったな。これからどうするんだ?」 「……」 顔を背けたまま、少女は何も言わない。 「家があるなら送ってくぜ」 「帰るところなんて! ……もうないもの」 「ならとりあえず、一緒に城下に戻ろうぜ」 リーグの声は穏やかで、やさしかった。少女は応とは言わぬかわりに、嫌だとも言わなかった。
「無事でよかった」 旅装束に身を包んだトールを見るのは久しぶりだった。 聖都のはずれにある移民街の安酒場だ。カイたちは、二階の奥にある個室に通された。 帝国は、イドゥナ教に改宗したものには帝国民と同等の権利を保証している。権利も住む場所も制限されているわけではない。事実、商売で名を上げたり軍人として働いたりして、貴族の位を手に入れるものもいる。 しかしどれだけ同等の権利を与えられたとしても、今まで敵であった帝国民と笑顔でやっていけるのかといえば、そうではない。必然的に移民たちは移民たちで集まるようになり、移民街が出来上がる。ブリガンディア人も、そういう場所への出入りは極力避けていた。 治安は決していいとは言えないが、地方特有の食料品などを持った商人が出入りするなど、それなりに活気のある街である。 「日暮れまではこのあたりも随分兵士がいたけど、今は落ち着いたものだ。ここを貸してもらえるそうだよ」 神聖でうつくしい聖都の内側にあって、移民街はどことなく粗野で垢抜けない騒がしさがあった。カイにとっては懐かしい喧騒だ。 「迷惑かけるな、すまねぇ」 料理を運んできた女将に、リーグは大きな体を丸めて頭を下げた。 「いいんだよ、正直あたしたちももうへとへとなのさ。命からがら生きるためにこの街に来たけど、やっぱり帝国はイヤだよ。戦争がなくなったって、あたしたちの村が復活するわけじゃないけど、戦がなくなるんなら、それに越したことはないもの」 ガツーンとやっちゃっておくれ、ガツーンと! と力瘤をつくる真似をして、女将は部屋を出て行った。 「これからどうする」 木のテーブルどかりと座り、リーグはパンを手に取る。 「しばらくはおとなしくするしかないな」 トールは壁に背を預けて立ち、腕を組む。 「しばらくって、どのくらいだよ」 リーグに引きずられるようにテーブルについたはいいものの、いざとなると食べ物に手が出ない。隣を伺うと、少女も―――エデと名乗った―――その様子だ。先程から何も言わずに、かたくなにうつむいている。 「そんなに長い期間じゃない。帝国側に情報が漏れているのだとしたら、時間が経てば経つほどこちらは不利になる。じりじりと焙り出されるのはごめんだ。―――姫からの言伝がある」 ぱっとカイは顔を上げてトールを見た。 「一週間後にヴァルデル皇子の十二歳の誕生日がある。皇子は姫に良く懐いていて、どうしても会いたいのだそうだ。その日は是非城に来て欲しい。誕生日の権限でわがままを通して、絶対に姉上を中にお入れする―――という手紙が来ている」 リーグはスープをすくったスプーンを途中でとめ、穴が空くほどトールの顔を注視した。 「姫はその日に作戦を決行すると言っている」 「弟の誕生日に、か。因果なモンだな」 「しかしそうでもしなければ、姫はトゥオネラの城を出ることは出来ないだろう。彼女は以前から、作戦を決行するときは現場に立ち会うと言っていたからな」 「だけど、隠し通路はどうする。作戦が漏れてるんだとしたら、そこはおそらく張られてるぜ」 「しかしおおっぴらに警備しているわけでもなさそうだ。気合を入れて警備をすればするほど隠し通路だということがばれるわけだろう。多少のリスクを背負ってでも、僕は隠し通路を突破することを勧める。正面突破はまず不可能だからな」 「あなたたち……」 今までかたくなに黙っていた少女が、膝の辺りをきつく握り締めて、声を絞り出した。 「あなたたち一体、何をするつもりなの」 きっと顔を上げて、エデは周囲を見回した。 男どもは顔を見合わせて口をつぐむ。いまさら隠しだてしても仕方がないとは思いつつも、堂々と宣言するほど開き直れてもいなかった。 「君こそ、ラインの乙女に成りすまして王宮に潜入するつもりだったそうだが、何をするつもりだったのかな」 澄んだ青の隻眼をエデに向け、トールは問い返す。 エデは唇を噛んで、顔を背けた。 「僕たちは皇帝を暗殺するつもりだ」 居合わせた人間は、各々息を飲んだ。 「お、おい」 「いまさら隠しても仕方がない。この国に姫はひとりしかいないのだし、彼女はたくさんの情報を見聞きしているはずだ」 「殺すの?」 椅子を引いて、エデは立ち上がった。背筋をまっすぐに伸ばし、トールの前に立つ。 「告げ口しに行くかもしれないのよ。殺さないの?」 エデの口元がつめたい笑みを含んだ。 「そうやって、言うことを聞かない人間はみんな殺せばいいのよ! リーリャの村を焼いたみたいに!」 エデは身を翻した。突風のような勢いで部屋を飛び出してゆく。 「おい、待てよ!」 椅子を蹴倒す勢いで、カイがその背を追った。
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