ことばとこたまてばこ
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2008年07月05日(土) |
おれは写真を撮りに行く |
いつしかおれの告白は意味の伴わない独白と化していた。
そのことに気づいた時、羞恥心にまみれて長い長いまばたきをした。
やりたいことはなんだったか。
願ってきていたことはなんだったか。
おれは言葉もなくおめえを見つめて愛することを願っていた。
「見つめるってことはきっと愛するってことだから、うかつにはさ、いけない……」
と庄司薫が書いてた。
音無し子のおれには見つめることがひどく大事なことで、
だったら愛してるということをまるだしのむきだしにするしかないゼ、と思っていた。
そして見つめさせてくれたこと、つまり愛させてくれたことへ対しての
感謝の意をこめた人さし指クンッと曲げてシャッタ−を押す。
愛するおめえの姿形を広く知らしめたいと願っていた。
おれはただただそうありたいと願っていた。
それなのに
屁をひって抜け落ちる頭髪の心配をしてひじきを食するだけの無為な日々を過ごしてたよー。
いま、まともであるためには何よりも失敗を重ねた不完全な完全でなくてはならないのに
気づけばおれはしょうもない見栄や傲慢、性欲、虚栄心などに捕われるあまり、
「鬱悶劣情なんぞ一切ございませんぜ、ふふっ、ねっ、こうして笑えているでしょう」
「ほらっこんなすてきなあなた撮れちゃってるゼー 失敗?ありえないって感じ!」
なーんて何ら欠けることのないパーフェクトなにんげんを気取ってた。
音無し子で半人前の写真家志望の小僧が歯茎むきだしたまま笑ってるー。
ぺちゃぺちゃ笑み すこやか笑み エッエッエッ笑み、だらしないほほえみ。
ほんで小賢しいカメラテクニックでこちょこちょとなーんぞ撮っちゃってる。
でもそんなことはいつまでも続けられるわけがなくて、
小賢しい知能と魂のとのはなはだしい乖離。
日々を過ごすたびに滑って転んでゴミの山に頭から突っ込んでばかりのような心持ち。
ははははは、すっかり汚辱にまみれちまったわね。
チェッ!どうしようもなく粘ついた液体が眼にこびりついてやがる!
おれ、臭ってますか?
銀蝿も喜ぶ生ゴミってかんじ?
あっ、その鼻ぁ、いまにももげそうですね?
いつまでもくだらないなあ、と思った。
いちど死んどけー、となさけなくなった。
だからおれは歩こうと決めた。
路上をいつまでも歩き続けて、
人間と向かい合おうと志し新たにして、
おれはニッポン人であると信じようとして、
ぎりぎりぎりぎりぎりと無心に歩き続けようと思った。
光を舐めて陰によりそり、
黒い雨にうたれて虹をあびて海を呑んで風のなかを通って、
人間のあそこへ至ろうとする真摯さをまるだしのむきだしにする。
そんなことを繰り返してるうちにきっと汚辱の臭いは薄れるんじゃねぇか
と 思った。
鼻毛も驚いて抜け落ちるほど当たり前のことだけど、
やっとのことで、強く、そう思えたのだった。
とんまなおばかさんね。ほほほ。
ちくしょうメ、どこまでも行けそうだという予感が、
まるで天竺にすらへも辿りつけるんじゃないか、という予感が、
何の根拠もこれっぽっちもありゃあしないくせにまったく何もかも惑わせやがる。
おれの眼はなにも観ていない。
愛するものが待っていると信じられるその場へ
ただただ会いに行くだけであり、
見ること話すこと感じること撮ることがまったく同質となる
その境地へ至ろうとすることこそが
写真だと思った
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