京都秋桜
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2005年03月22日(火) |
sham battle【デス種】【ハイネ夢】 |
キン、キンと銀色に光るナイフが擦れ合う音が響いた。
あっさりと勝敗はついた。 目の前にいるのはシルバーグレイのふわふわした、いかにも戦場には不釣合いであろう雰囲気のある少女。白桜色をした瞳はしっかりとハイネを睨んでいた。しかし、うっすらと涙を浮かべているような瞳に睨まれて余裕がなくなるほどハイネも実戦経験がないわけではない。 恐らく根っからまじめで、頑張り屋で、負けず嫌いの少女なのだろう。 彼女の細い首筋には模擬戦闘用の銀に光るナイフ。ハイネは右手でそれを持ち、左手は彼女の顔のすぐ横においてある。華奢な彼女は今、ハイネの下にいた。 彼女の顔は悔しさや屈辱で歪んでいる。瞳を見る限りでは、泣きたいのだろうけれど懸命にこらえている様子が伺える。 ―――――…筋は悪くない。オペレーターじゃもったいないか? そんなことを考えながら彼女を見る。努力の跡も充分に見られているし、ミスもなかった。今回の結果は実戦経験の差と男女の差、というところだろうか。後者はともかく前者は慣れてしまえば問題ない。 ハイネ自身、容赦はしなかった。その代わりに力押しはしなかった。間違っても相手は女の子だ。彼女にもそれがわかっているからなお悔しいのだろう。 戦場で敵がそんなことを考慮してくれるとは思わないし、むしろそこにつけ込んでくるだろうがそれは今後の練習で何とかなる。
「これで分かっただろう?」 「何が、ですか」
少しだけ声が震えている。余ほど怖かったのであろうか。しかしそれでは軍人など務まらない。彼女にもそれは分かっていた。だからこそ、涙を流さないようにしているのだ。 それでもまっすぐな瞳の中に隠された意志は消えない。どこまでも貪欲に強さを求める人間の瞳だった。
「【冷静な判断】をするだけじゃ駄目だ。そこから【行動】に移せなければ意味がない」 「……」
首筋に未だ冷たい感触を伴ったまま。涙目なのに、それでも刺すようにハイネを睨む彼女。彼女自身、勝てる自信があった、といえば嘘になる。現役軍人だ。明らかに戦闘数が違う。でも、負ける気など少しもなかった。 負けた理由を相手が軍人だから、とか男だから、とか実践数が違うとか、そんなことにはしたくない。それは言い訳だ。実際の敗因など言わずと知れている。 実力の差、でしかない。 睨まれていることを自覚しながらもハイネは言葉を紡ぐ。
「実際に今、君がここから起き上がるためにはこのナイフと俺を上手く交わさなければならない。だが、そう【判断】することはできてもそれを【行動】には移せないだろう」 「…っ!!」
彼女を下にしたまま。 首筋のナイフは頚動脈のあたりにぴたりと添えてある。今この手にあるのは模擬用のナイフ。それでも殺ろうと思って殺れないことはない。 今この時。彼女の生殺与奪を握っているのが自分だと思うとどうしようもないくらいに興奮する。 実践でもこんな感覚なかったことなのに、とハイネは思う。そして微笑を浮かべて言葉を紡ぐ。少し嫌なやつになった気分だ。
「まじめそうなマーベルのことだから、実践でやったほうが身につくだろ?」 「勝手に呼び捨てにしないでください。そして早くどいでください」
本当は命令したいのであろう気持ちを抑えて彼女は見上げてハイネに言う。睨まれているのに何故か危機感を覚えない自分は既に重症だと知る。 まだまだ彼女を挑発させるような言葉はたくさんあったし、名残惜しい気もしなくはかったが、仕方なくハイネは彼女の上から退いた。自身もわりとその体勢というのは辛かったから。 それにいくら模擬戦闘といってもいい加減解放してあげなければ彼女が可哀相だ。自分の気持ちも考慮すれば少しだけ、だけど。
「ありがとう、ございました……ヴァステンフルス先輩」
起き上がった彼女は最初にお礼を述べた。やはりハイネの想像通り、まじめで律儀な少女だった。 頭を下げれば髪の毛も重力に遵って垂れ下がる。天井についている蛍光灯に反射して光っているようにも見えた。
「ハ、イ、ネ」 「は…?」 「ハイネって呼べよ」
先程の模擬線とは裏腹の穏やかな笑顔でハイネは言う。高さ的に丁度良いとされる頭を上げた彼女の頭手を置きながら、ついでにポンポンとたたく。 本人は不服そうな顔をしていて、それがまたおもしろかった。
「そんな堅っ苦しいの俺、苦手だから」 「…そうですか」
明るい声のハイネとは対照的に、抑揚のない声で返事をする彼女。再び言葉を紡ごうとする彼女はしっかりと顔を上げて微笑みながらこう言った。
「それを意見として【認める】ことはできますが【了承】はできません」
それが彼女のささやかな最後の抵抗だった。 どこまでも反抗してくる彼女にハイネは、無意識に口端をあげて笑っていた。
******************** 模擬戦闘中に押し倒すっていうのは事故なのでしょうかねぇ。 そして、ハイネちゃんが微妙にサディスト…? まぁ良いや。そんなハイネちゃんも好きだから。
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