京都秋桜
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2005年03月25日(金) |
桜色の詩【デス種】【ハイネ夢】 |
ほら、見つけた。まどろみの君。
地上三階、地下一階建てのアカデミー本館の別棟。地上は図書館、地下はパソコン室となっている、アカデミーの誇る建物。 そこに置かれている本の量は並ではない。 本のジャンルは多種多様。学習資料にも充分使えるが勿論、暇つぶしにも適したまさに快適空間の文字通り。用があってもなくても楽しめる、それは建物として大きな利点となる。 調べものなら地下にいけばパソコンが用意されているし、丸々一日いても決して無駄に過ごしたと思わせない、非常に便利な建物。また来よう、と無意識に思うのも無理はない。 外観はシンプルだが、立派。白を貴重とした建物はお洒落なイメージを見た者に与える。
「ん…」
うっすらと瞼を開く。それだけでいつの間にか自分は寝てたんだ、と当然のように思う。顔のすぐ近くに固い机がある。自分は一体どこで寝ていたのだろうと思いながらまだ上手くはたらかない思考を動かそうとする。 ―――――あぁ…と、しょかん……か。 どこか分かったところで安堵するようにゆっくりと息を吐いた。春の匂いが空気に混じっているような気がした。 体のあちこちが痛い。机に伏せて寝るというのは決して楽な姿勢ではない。
「あ、起きた? お姫さま?」
目の前から聞こえてきた声に一瞬、肩を震わせる。最近聞いたばかりの声だが、覚醒していない頭では誰かが分からない。そっと、顔を上げる。頭が少し重い。 視界に鮮やかなオレンジの髪と緑の瞳が入ってきた。
「ぇ…? ぅ、うわっ! ヴェ、ヴェステンフルス先輩っ?!」
思わず椅子から立ち上がり、叫んでしまった。場所が図書館だということも忘れて。口元に手を当て、反省の色を見せるが、今更遅い。 頭に手を当てて溜息をついたあと、彼女は急いで片づけを始め、早足で図書館を出る。そのあとを当然のようにハイネはついていく。 扉が開くエア音がやけに新鮮に聞こえて、次の瞬間には春の暖かい風が頬を滑っていた。もう少し、図書館にいたかったと彼女は思う。
「どうしてついてくるんですか?」
いい加減にして欲しいというニュアンスをこめて。振り返りながら彼女はハイネに強い口調で言う。
「気になるから」 「はぁ?」
何を言うのだろうか、目の前オレンジの髪の人は。よく分からない人。
「じゃぁなんで卒業したこの学校に?」 「教官として呼ばれたから」
先日ハイネが来た彼女のとった講座というのは最初、別の卒業生が来る予定だったらしいが、その人が急遽召集されたらしくハイネが来ることになった。 だから、本当にハイネが教官として呼ばれるのは今日の講座だったということだ。 ハイネはその講座が終わった後彼女を探し、図書館で見つけたという。
「一緒にいたくないんですけど」 「冷たいなー」
言葉とは裏腹に笑ってハイネは言う。 そんなハイネと一緒に歩くなど、恋人でもないのにしたくはない。だいたいそうする理由がどこにもないのだから。 しかし、どうせこれ以上何を言っても無駄だろうと判断した彼女は賢明だろう。後ろを歩かれるのも不自然なので、大人しくハイネの隣を歩くことにした。視線が集まってしまうのはこの際気にしない。
「あんなところで寝ちゃうなんて、珍しいんじゃない?」 「うん。昨日ちょっと寝たの遅かったから…」
左肩にかかっているハンドバックを持ち直して彼女は目をこする。そうでなくても春は眠いというのに。 真面目な彼女にしてみれば、あんなところで寝るなんて失態の他ない。そんなところをよりにもよってハイネに見られたなんて…心の中では深い、深い溜息をつく。
「戦場じゃ、寝不足は強敵だ。…失敗、するなよ?」
そんな彼女の心のうちを知ってか知らずか、ハイネは注意を施す。寝不足で一つ判断を誤っただけで戦場では大きな犠牲を払わねばならぬことだってある。 だからといって、充分な睡眠が約束されているわけでもない。本当に強敵である。
「失敗なんてしないもん」 「そうだな、マーベルは頑張り屋さんだから」
そう言って彼女の頭をポンポンと叩く。
「だから、そうやって子ども扱いしないでください」
白桜色の瞳がハイネを睨む。 それをちゃんと聞いているのかどうか彼女には分からない。だけど、ハイネはそれを受け流すように頭をくしゃくしゃとやる。シルバーグレイの髪の毛が小刻みに彼の指の間で揺れる。
「苦しくなったらいつでも言えば良い。傍にいてやるから」
どこでも優しいその言葉に彼女はハイネを頼ってしまいそうな自分に気が付いていた。 二人が恋人になるのも、そう遠くないかもしれない。
桜が舞うよ。まるで二人の幸せを願うように。
******************** まだ恋人同士ではありませんよー。まぁこの二人はそのラインも微妙でしょうけれども。
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