京都秋桜
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2005年03月29日(火) 月明かりの下で【デス種】【ハイネ夢】

 星さえ溶けるその夜に、満月はどこまでも私の後を追いかけてきた。





 静まり返った満月の夜。
 大きな道から一本ずれるだけで充分すぎるくらいにその喧騒は聞こえなくなる。不思議なものだ。
 それでも寒いということはない。もう季節は夏へと向かっていたから。だけど息を吐いてしまうのは何か物寂しいからかもしれない。
 アカデミー卒業が決まって、配属も決まった。そこはあのハイネ・ヴェステンフルスのいるところで、最初は驚いた。顔には出さなかったけれど嬉しいという気持ちも少しはあって、だけど、それを本人に伝えることはできなかった。
 あくまでもそこは仕事をするところなわけだから。まじめな彼女がそう簡単に職場恋愛など認められるはずもなく、だからといって今更配属を変えてくれというわけにもいかず、前途多難な勤務が待っていることなど火を見るより明らかなことだった。
 それでも、こうやってハイネを待つ時間は決して楽しくないわけじゃなくて。早く逢いたいなぁと思ってしまう自分は否めなかった。
 本日、新しいパイロットなどのメンバーを入れるために本国プラントに戻ってきたホースキン隊。勿論、ハイネも一緒に戻ってきていて、それでも本部で仕事はあったらしい。
 本当ならもっと早くに会いたかったと電話で言ったのはハイネだったが、明日まで待てないからやっぱり今から逢おうということになった。
 待ち合わせは? と聞いた彼女に家で待っていろ、と言ったのはハイネだったが彼女はマンションの下に降りて待っていた。ハイネは夜の人ごみに彼女を出したくないらしい。守られていることを自覚しながら、自分でも防衛手段は持っているのに、と思ってしまうのはやはり素直じゃないからなのかもれないが、それでも心配してくれるということにし対して悪い気はしない。
 一人微笑する。恋人と、そう呼べる関係になって既に何ヶ月かが経つが彼女にはその実感はない。その原因はそれ以前の二人と今の二人とで大きな変化が見られないからなのかもしれない。
 そんなことを考えているとバッグの中で携帯電話が鳴った。その着信音はメールではなく電話だった。
 ディスプレイを見てから電話にでる。少しだけ頬を緩ませながら。

「はい、もしもし」
『空、空見てみ』

 互いに誰、と名乗るわけでもなく噛み合わない会話が始まった。彼女は反射的に電話の相手に問う。

「なんですか? いきなり電話してきて」
『いいから、上見てみろって』

 仕方なく、言われるままに空を見上げる。すると、そこには紺色の夜空に金の星がばら撒かれていた。まるでビーズの散りばめたように、おのおのと光る星たち。
 そして何よりその日は満月だった。
 思わず出た言葉はありきたりな言葉だった。

「きれー…」
『だろ? マーベル、下ばっか向いてたから』
「あぁ…って、え? なんで…」

 知っているのか、と続くはずだった言葉は彼女が振り返ったことによって飲まれることになった。そして違う言葉が叫ばれる。

「せ、せんぱいっ!!」
「久しぶり。マーベル」

 ずっと下を向いていろいろ考えていて、電話が鳴ったときにはそちらにばかり気を取られていて彼女はハイネが来たこと気がつかなかった。
 それにしてもいきなり背後になんか立たれていたら誰でもびっくりする。
 驚いている彼女とは正反対にハイネは片手をあげて挨拶をしながら、彼女の反応を笑う。

「来てるなら、わざわざ携帯なんて使わなくても…」

 呆れたようにそう言って彼女は携帯電話の通話終了ボタンを押し、畳んでからバッグの中に入れる。
 ハイネはいつものように彼女の頭に手をたり、ポンポンと撫でる。シルバーグレイの髪の毛からは清潔そうなシャンプーの香りがした。

「驚いた顔が見たかったのさっ」
「えぇ、充分すぎるくらいに驚かされました」

 明るい声のハイネと少しご立腹の少女と。拗ねる姿もまた可愛らしいと思うのは重症の証拠だろうか、とハイネは心の隅で思いながら、今は考えないでおく。
 せっかくの、二人きりの時間だから。

「散歩にでも行くか」
「そうですね。月も星も綺麗ですし」

 夜空に散りばめられた星たちを見上げて。それを同じように綺麗だと感じて。二人は夜の散歩に出る。

 そうして、どちらともなく自然に繋がれた手は互いのぬくもりでいっぱいだった。





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 うーわー。ハイネちゃんやってくれる! ヒロインも可愛らしくてねぇ…。


常盤燈鞠 |MAIL