京都秋桜
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2005年04月02日(土) 冬、来たれ【デス種】【ハイネ夢】

 少しずつ、季節は何もかもが活動を停止する冬へと足を進めていた。





「まだ秋なのに…寒いですねぇ」

 広い広場の大通り。まるでどこかの大学のキャンパスのように広いそこは道の両側に大きなたくさんの木が赤や黄色の色の葉をつけていた。風が吹けば当たり前のように舞い落ちる。
 プラントの季節というのは地球で言う北半球の季節と同じように移り変わっていくように設定してある。だからきっと地球の北半球と呼ばれる地域では同じように紅葉が見られているだろう。
 そんなところを珍しく非番が重なったハイネと彼女は歩いていた。

「そんなに着てるのに?」

 少し厚手の茶色のロングコートを着て、尚且つその下にもいつもの如く厚着をしているであろう彼女とは正反対にハイネはセーターにコートという実に薄い格好だった。
 彼女が厚着をするのは冷え性だから、とハイネは聞いている。女性は大変なのよ? と以前言われたことがある。
 そんなことを思い出しながら自分の少し前を行く彼女を見る。

「冬も…そう遠くないもの」

 微笑みながら言う。秋というわりには、確かに今日はいささか寒い。風はないが、空気が冷たい。
 仕事のときは結っているシルバーグレイの髪の毛がふわふわと揺れている。彼女はまっすぐなストレートに憧れているというけれど、ハイネはそのクルクルが彼女に酷く似合っていると思っている。
 ハイネの深い緑の瞳が小柄で華奢な彼女を映し出していた。そんな彼女までもが軍に入らなければならない情勢が悲しく思える。それがいくら彼女の意思だとしても。
 本当なら彼女は危険だから軍を辞めさせたい、もう戦争も終わったから。実際に戦争が終わってから辞めていく人間は多い。しかし、それはボランティアの人間が多く、彼女はちゃんとアカデミーを出ている。
 それに、それをあっさりと受け入れる彼女でもない。そんな理由で、と強い言葉を返してくることなど目に見えている。
 思考を巡らせながら深い溜息をつく。魂までもが抜け出しそうな吐いた後、体は無意識のうちに肺に空気を送り込もうとする。冷ややかな秋の新鮮な空気が肺の中いっぱいに入っていくのが分かった。

「マーベル」
「はい? っ……!?」

 名前を呼ばれたから振り向けば左腕を思い切り引っ張られ、気が付いたときには端整なハイネの顔とオレンジの髪の毛が目の前にあった。
 驚きのあまり白桜の瞳は大きく見開かれていた。いきなりの出来事に対して彼女は
一瞬思考が止まる。どうにも彼女はこういう【いきなり】の出来事に対して弱い。ハイネもそれを知っていて、そうするから性質が悪い。
 しかし、いくら彼女とてそれをキスだと自覚するのにそう時間はかからなかった。
 分かった途端、彼女が出る行動は決まっている。ハイネの失敗は彼女の利き腕ではない左腕を引っ張ったことだ。
 彼女の右手がハイネの頬を叩く。パシン、と渇いた音が響いていた。

「な、なにするっ…ぇ?」
「イチゴ味」

 突然のキスに驚いて平打ちをして、怒鳴り込もうとしたとき口の中の違和感に気が付く。何か、球形の物が転がっているようだった。
 そんな彼女の平打ちも戸惑いも全て予想していたかのようにハイネは喉の奥で笑いをこらえながら球形の物の味の正体を教える。
 首を傾げて彼女は訊ねる。おそらくは赤いであろうそれは、何なのか。

「あ、あめ…?」
「正解」

 口の中の異物感はどうやらハイネの口から移ってきたものらしい。飴という日常に溢れるお菓子の一種が自分の口の中にある。なんだか違和感があって仕方がない。
 得意げに右手の人差し指を立てて言うハイネに彼女は怒りを通り越して、呆れてしまう。

「普通に渡せないんですか?」

 二の舞にならないように、と今度はハイネの隣を歩きながら彼女は言う。同じ方法をハイネが使ってくるとは考えられなかったが、とりあえず予防しておくにこしたことはない。

「いや、何? マーベルが可愛かったから」
「はぁ?!」

 ハイネは至って真面目だが、言われた彼女にしてみればわけがわからないという感じだ。

「だいたいなんでイチゴ味の飴なんかを先輩が…」
「まぁまぁいいじゃないの。好きでしょ? イチゴ」

 笑いながらハイネは言う。すっかり好みを見抜かれているハイネに彼女はなんとも言えない微妙な感情を持った。
 そして深い溜息の後、無意識のうちに微笑した。嬉しさで頬を少しだけ赤くして。
 そんな彼女の様子に気が付いてハイネもまた心地好い気分になった。

 冬がもうすぐそこまで来ている。だけど、ぬくもりがあるから大丈夫。





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 彼女をからかうのが大好きなハイネちゃん。決して軽くはないと思います。


常盤燈鞠 |MAIL