京都秋桜
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2005年04月04日(月) 止まずの雨【デス種】【ハイネ夢】

 その日は人工的に決められた雨の日だった。窓の外では打ちつけるような雨が音を立てて降っていた。





「で、私はジュール隊に人事異動になったのよ」

 ぐつぐつ、コトコトと様々な音をキッチンで立てながらエプロン姿の彼女はダイニングのソファに座るハイネに言う。
 既になれてしまっている夕食の準備など、話しながらでも余裕で出来る。
 仕事中は二つに結われているシルバーグレイの髪の毛は、今は一つに結われていた。

「ナスカ級艦…ボルテール、だったか?」
「そう」

 二人分の食事を用意することに、かすかな喜びを感じながら彼女はテキパキと調理を進める。しだいに良い香りがしてきて、ハイネも立ち上がり、キッチンへ向かう。作るのは彼女に任せきりだが、自分にも手伝えることはしないと、下手をしたら彼女は夕飯抜き、などと言いそうだから。
 そんなハイネに気がついた彼女はできあがっている皿をハイネに渡す。本日の夕飯はパスタらしい。ミートソースのかけられた皿を受け取り、ハイネはダイニングのテーブルに置く。

「ジュール隊、隊長って…若いよな?」

 綺麗に切りそろえられた銀髪の白い服を着た隊長を思い出す。確か、ユニウス条約締結後は、クライン派として、一時的にプラント最高評議会議員になっていた人間だ。
 それまでザラ派だった母を非難するようなその行動に自身はどう思っていたのだろうと無意味なことを考える。

「やだ。先輩とそんなに変わりませんよ。確か十九でしたけど…」
「ふーん」

 聞いておきながら、さして興味がないようにハイネは次の皿を彼女から受け取る。

「また会えなくなるなー」
「仕方ないですよ。同じ配属になることのほうが少ないんですから」

 現在、軍本部に所属しているハイネと今まで別部隊にいて、これからジュール隊へと転属する彼女と。
 同じ所属になったのはホースキン隊、一度きりのことだった。ハイネはそれに対して不服でならない。こうして一緒に食事する機会すら減らされてしまうのは、子供のわがままかもしれないが、嫌なものは嫌だった。
 始めが同じ隊だったこともあり、それに慣れてしまうと、違う所属というのはピンとこない。物寂しいだけかもしれないが。

「いいじゃないですか。今だってこうして一緒にいるんですから」

 そういいながら彼女はハイネにカルボナーラのパスタが盛ってある皿を渡す。雨のせいか、空気が冷えていて、温かいパスタの皿との温度差がハイネの手に感触として伝わる。
 ふと、窓の外を見るが未だやむ気配はない。天気予報では明日の午前まで雨だった。はずれることのない天気予報だ。信じてまず、間違いはないだろう。

「コーヒーにする? それとも紅茶?」
「ん、コーヒーで」

 ハイネがそう言えば、彼女は無駄な行動一つせずにコーヒーの準備を始める。そしてハイネは引き出しから二つおそろいのフォークを出して、ダイニングへ向かう。
 彼女はコーヒーをセットした後、エプロンをはずし、髪の毛のゴムをとりながらカーテンを閉めようと窓のほうへと向かう。

「雨、止みませんね…」

 白いカーテンの端を掴んでどこか哀愁漂うように言った彼女をハイネは後ろから肩を抱きしめる。特に理由はなかったけれど、あえていうなら弱弱しい背中をいつまでも見て痛くなかったからだとハイネは思う。
 彼女は絡みついた驚きながらも、腕を離そうともせずそのまま受け止めた。

「寒いか?」

 ハイネの言葉が耳元で聞こえて。その吐息までもがリアルに伝わる。オレンジの髪がすぐそこにあって。彼女の顔には自然を笑みが浮かぶ。
 無意識のうちに、彼女は自分の肩に回されていたハイネの手を握り締めていた。

「いいえ…」

 自分の肩に乗せられたハイネのオレンジの頭。絡みつくような腕。触れる部分から伝わる熱こそがぬくもり。
 温かいよ、だってこんなにも近くにいるんだもの。放したくないと思うのを愛ゆえの我侭というのならば、相手は聞いてくれるだろうか。

 もうすぐコーヒーが温まる。それまで、もう少しだけ。





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 あまーい……。ユニウスセブンの破砕作業が終わったジュール隊にヒロイン転属。これが最期の顔合わせになるような気がする。通信越しとか抜いて。


常盤燈鞠 |MAIL