優雅だった外国銀行

tonton

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48 JT森ビル
2005年08月16日(火)

 パリ国立銀行は、東京支店も大阪支店も新卒者を採用しなくなって久しい。一般事務員は派遣社員であり、それ以外は中途採用で、若い人を育てる事はしなくなっていた。 支店長ソテール氏は、長く勤務している自行の行員を評価しなかった。 パリ国立銀行東京支店は、長い間小人数で3倍も4倍もの人数の外国銀行と互角又は、それ以上の営業成績を上げてきている。 それなのに長く勤務している行員の評価は低いのである。 そして、「彼はアメリカの銀行に2年居たから優秀だ」と言っては、若い人を中途採用し、中堅に据えたりしていた。 人の出入りが多くなって来ていた。 「渡り鳥」がたくさん来るようになった。 彼らは勤務先が嫌になれば、我慢をせずにすぐ辞めてしまうのである。 だから履歴書の職歴は多くなる、それをソテール氏は経験豊かと取った。 「イタリアの銀行に居て、ドイツの会社に居た、アメリカの銀行にも居た、これはすごい経歴だ」といった具合である。 家族的雰囲気であった東京支店も、すっかり様子が変わってしまった。

城山JT森ビルは、22階以上がJT、即ち日本たばこの所有となっている。大家さんは旧専売公社。 言ってみれば、お役所気質が抜けきらない人の良い人達であるが、管理が森ビルなので少々面倒な事が多い。 簡単な事、廊下につける案内板一つにしても、JTに書類で申請し、これなら良かろうとなってから森ビルに書類が回る。

専売公社には営業部があったかも知れないが、物を売るための苦労は知らない、苦労する必用が無かったと言った方が正しいだろう。 それが日本たばこという大会社になり、気が付いてみると虎ノ門界隈だけでも広大な土地を所有する企業であった。 そこで、ビルを建てて貸してはどうかとなり、虎ノ門のビル王、森ビルに相談したのであろう。 彼等にとって不幸な事は、ビルが完成する前に不景気が来てしまった事である。 ビル経営のために設立されたJT不動産株式会社には、そんな訳で本当の意味での営業の経験が全く無い人達が、懸命に営業活動をしていた。

城山JT森ビルは、3階までは商店やレストランが入る感じの良いスペースであるが、4階以上のオフィス階になると様子が一変する。 ビルが四角ではないのである。 オフィススペースはL字型になっているのだが、公共スペース、つまりエレベーター、階段、トイレ等がL字の内側に在り、ビル全体は三角になっている。 これはとても不思議なのである。 エレベーターを降りた瞬間、降りる前からと言った方が正しいかも知れない、方角感覚が無くなってしまうのである。 ほとんどの人がそうなるのだから面白い。 西新宿に住友三角ビルというのがある。 あれも、多くの人が方角感覚を失うビルではないだろうか。

オフィスの空調には悩まされる事が多い。 最近のビルは、増して高層ビルにあっては窓が開かないのが普通である。 熱過ぎ、寒すぎ、そして空調時間の短さで夏、冬は悩まされる。 パリ国立銀行の入っていた丸の内のビルは、午前8時20分から午後7時迄が標準の空調時間で、それ以外は、かなり高額の特別料金を払わなければ空調は入らない。 謙治は普段から7時前に出勤し、冬はそれ程感じないが、夏の熱さには閉口していた。 そして夕方、謙治は空調の切れる前に帰れる日が一週間に一度位はあったのだろうか。 オースタン氏が得意げに言った、「今度のビルは24時間空調である」謙治は耳を疑った。省エネが叫ばれ始めたこの時代に、そんなことが許される筈が無い。 コンピューター室やロイターその他のコントローラー類の部屋は、特別な空調機を入れてある。 しかし、誰も居ない深夜のオフィスに何故空調が?

空調時間は丸の内のビルより短かった。 各ブロックに時間外空調のスイッチが有り、それによって24時間空調が可能だと言うのである。 その時間外空調料金は甚だしく高いものである。 JTとの間で言い争いが始まった。 「あの時、こう言ったではないか。」「いえ、そんな事申しておりません。」




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