回り道のついでに
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ネコに会ったのは春の初めだった。 俺は期待してなかったし、ネコにも希望は与えていない。
それなのに、と大きい犬は思った。 気が付けば自分のテリトリーに、微かなネコの匂い。 あの日、ネコはするりと俺に近づいてきた。 テリトリーを侵して、足元で丸くなった。 小さいからだが、あまりに冷たくなっていたから、温めてやった。 それだけだ。
大きい犬は主人を失くしたばかりで、新しいテリトリーに緊張していた。 次の主人はまだ決まっていない。 不安があった。 それ以上に寂しさがあった。 ネコが求めるのは熱だけだと分かっても、気まぐれなネコを手離せない。
ネコは寒がりだから、夜一人では眠れないのだろう。 それで俺のところに来るのだ。 俺の横に居ない時には、誰かがあの寂しがり屋のネコを温めているのだ。 ネコはいつも、何か他の匂いを纏って来る。 俺が居なくなっても、ネコは温かくなりさえすれば眠れるのだろう。
俺はネコがまったく好みじゃない。 自分と同じくらいかもっと大きい体の犬が好きなのだ。 すべすべの短毛で、耳が垂れてる娘。 優しくて、あんまり吠えない、目が綺麗な犬。
こんなに小さくてふわふわした長毛は、全然違う。 丸くなると更に小さくなる。 小さいくせによく動く。 目がビー玉みたいに光る。 ちょっと可愛いとは思う。
気温が上がってきた。 夜は短くなって、寒くなくなってきた。 ネコはだんだん姿を見せなくなった。 俺がこのまま主人を持たず、 一人ぽっちで最期の夜を迎えることがあったなら、 その時隣にいるのはネコがいい。 そう思ったときもあったのに。
そんな俺の気持ちを無視して、夏は来る。 熱くて無情な夏だ。 別れの時が、近づいているのか。 今夜は雨。 少し肌寒い。 今夜あたり、ネコの忍び足が聞けるかもしれない。 大きい犬は寝た振りをしながら、 耳を欹てて待つことにした。
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