月鏡〜はじまりのこと4〜 - 2008年06月28日(土) 痛む足を庇いながら歩いていると ふいに名前を呼ばれたような気がした。 彼だった。 交差点を小走りに渡って こちらに向かいながら もう一度わたしを呼んだ。 悪かったね。 アポが一件キャンセルになったんで 社に連絡したら もうキミが着く頃だって聞いて。 いいえ。 あ 書類はフロントに。 ありがとう。助かったよ。 明日の朝一で使うから。 そうですか。 お役に立ててよかったです。 ・・・・ じゃあ わたしはこれで。 ぺこりと頭を下げて歩き出そうとしたとき 彼が言った。 もしよかったら飯でもどお? どうせひとりだし。 帰りが遅くなるかな。 いいえ。あっはい。 んーそれはどっち? 笑いながら彼が言った。 わたしも笑った。 心が柔らかくほぐれて行った。 たったそれだけのことなのに 人間らしい彼に触れたようで なんだかとても嬉しかった。 -
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