月鏡〜はじまりのこと6〜 - 2008年07月02日(水) わたしは傷にテープを貼りながら ふと 彼の手の感触を思い出していた。 彼のてのひらは しっかりとわたしを支えてくれた。 とても温かくて 安心させてくれる手だった。 そう あの時 電車から降りたあのときも わたしの腕に同じ温かさが残った。 こうして彼を待っている間 彼も わたしのことを 考えてくれているのだろうか。 片方の靴を手に。 その場面はまるで 小さい頃読んだお伽話のようで わたしと彼のストーリーには もっと先があるようにも思えた。 けれどもそう思ったとき 彼の指に必ずある銀の輪が浮かんできて もう何度も繰り返したように ふたつの感情が 行ったり来たりした。 待たせたね その声で顔を上げると 彼が肩で息をして立っていた。 そうして 包みの中から取り出したものを わたしの足元に置いた。 真新しいデッキシューズだった。 えっ たぶん楽だと思うんだけど こっちのと比べてみたから 驚くわたしを彼が促し わたしはそっと足を入れた。 しっかりと全体を包み込み ふわっと和らぐような安心感があった。 ・・・いいかも ほんと? 再び彼の手を支えに わたしは立ち上がった。 彼がわたしに 新しい履物を 見つけてきてくれたのだ。 -
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