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2006年11月22日(水) |
高丘親王航海記/澁澤龍彦 |
高丘親王航海記/澁澤龍彦
天竺へと向かった高丘親王の航海記。 「儒艮」「蘭房」「獏園」「蜜人」「鏡湖」「真珠」「頻伽」という 7章それぞれが美しく淡々と綴られている。
高丘親王という人は実在の人物だが、 天竺へ向かうというこの旅の話は澁澤龍彦の創作である。 人の言葉を話せるようになる儒艮、想像上の動物であるはずの獏、 人間の顔と上半身に鳥の下半身を持つ女、人の身体に犬の頭を持つ男、 摩訶不思議な生き物がごく自然にあたりまえに存在しているという夢幻譚。
死を身近に感じている高丘親王にとって 現実世界と幻想世界の境目などない。 現在と過去と未来の時間の境目すらもなくなっている。 現実に見えて、実はこの瞬間はすでに現実ではなく 夢のようにおもえるが、夢でもない。 この世とは、すべてまやかし、あの世の鏡像のようなものだ。
澁澤龍彦の文体は、素っ気無いほど淡々としていて エロティックな箇所も、粘りつくようないやらしさがまったく感じられず ただただ哀しいほどの透明感ばかりが漂っている。
澁澤龍彦自身が、死を見据えつつ書いたというこの小説。 余命がいくばくもないという設定の高丘親王は、 まるで澁澤龍彦自身であるかのようだ。
「そうれ、天竺まで飛んでゆけ」 文中で語られる高丘親王の台詞が、 澁澤龍彦のハスキーでセクシーな声となって聞こえてきた。
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