雨が止んだあとに外に出てみた。 黄色いチューリップみたいな月が出ている。 バターの塊みたいな月。 ユーカリの葉が揺れて 涼しい匂いが漂っている。 鋳鉄の街路灯が赤い灯をともしていて、 その足元に一匹の三毛猫がうずくまっていた。 猫はモゾモゾとポケットから鰹節を取り出して頬張り始めた。 カリカリカリと乾いた音だけが寒空に響く。 何処かの丘の上からは誰かのバイオリンの弾く音色が流れてきていた。 猫は一服つくと、野球に使う軟式ボールをまたポケットから取り出すと ポンポン跳ねさせてじゃれ始めた。 そのうちそれは僕の方に転がってきた。 僕はそれをしゃがんで拾うと猫に向けて転がして返した。 ボールは猫の唾液でべとべとした。 猫はそれを立ち上がって拾った。 そして美しいワインドアップで僕に向かって投げつけた。 咄嗟のことだったけれど、僕はうまくそれを受け取ることが出来た。 手の平はひりひりしたけれど。 猫はペロリと舌を出した。 ポリポリと耳の後ろを掻いて、それからヒョイと塀の上に飛び乗って、 それから優雅に去っていった。 長くて美しいまだらの尻尾を左右に揺らしながら。 僕は受け取ったボールを手の平を開いて見てみる。 それはバターを溶かした透明な月 その鏡面には色々な人の顔が映っては消えた。 バイオリンは何を演奏しているのかを問いかけているかのように まだ流れていた。 物の分別が着くころにまた来ようと心に決めた場所のように そびえる丘。ウネウネと白い道筋が丘の天辺まで続いて。 さっきの三毛猫がやはり優美に尻尾を振ってそこを歩いていた。 手の平に濡れたものを舐めると少ししょっぱくて、 少し懐かしかった。
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