部長のもとへと、海堂は急いだ。 早く答えを出したかったから。 出して、乾に伝えたいことがあるから。自分はまだ、何も伝えていない。 「部長……」 「どうした、そんなに急いで」 「昨日のことなんすけど」 来てみたものの、何と言ったらいいのだろうか? 賭けは賭けだし…。 でも、部長と付き合うわけにはいかないから…!! 「あぁ。乾とはもう話したのか?」 「部長が、賭けのこと乾先輩に言ったんすか?」 この状況から考えると、そうとしか言えないだろう。 「あぁ、俺が言ったんだ。『海堂は俺のものになる』とな」 手塚は乾に勝つと宣言しに行った。 それ程に、自信があったんだろうか。 でも――――――――……。 「俺は、部長とは付き合えません。約束を破ることになるけど…」 「そんなに乾がいいのか?」 「乾先輩じゃなくちゃ、ダメです」 これは本当だ。 いつも近くにいて、気がつかなかったけど。 あの人以外の人と付き合うなんで、考えたこともなかった。 「俺は、あの人が居てくれたから変われたんです。 あの人がいなくなるなんて、考えれません」 海堂はキッパリと手塚にそう言った。 いつも、自分気持ちを伝えないからいけなかったんだ。 だから、すれ違ってしまうんだ。 「俺は、乾先輩が好きです」 あの時言えなかった言葉。 今は、ちゃんと言える。 「……………そうか」 「…」 「なら、仕方ない。この賭けはなかったことにしてやる」 「すんません」 「でも、俺はお前を諦めたわけではない。それだけは覚えててくれ。 俺も、海堂を愛してるんだ」 手塚のその言葉に答えることは出来なかった。 自分は、部長の気持ちを受け入れることが出来ないから。 部室からそっと出ていった。
「いつまで隠れてるつもりだ?」 「なんだ、バレてたのか」 「当たり前だ」 乾が部室へと入ってくる。 初めから、聞いていた。 「やっぱり卑怯だな、お前は」 「うん、俺もそう思うよ」 苦笑する。 「でも、まさかお前がこうもあっさりと引き下がるとは思わなかった」 乾は意地悪く聞いてくる。 本当はわかっているのに。 なぜ乾なのか、手塚は内心イライラしていた。 「あそこまで言われて、何を言う?」 「まぁ、ね」 でも、乾もまさかあそこまではっきりと言うとは思いもしなかった。 自分なんかのために……。 「乾。海堂がずっと自分のものだなんて思うなよ。 絶対に手に入れてみせる」 「やれるもんならな。俺は、どんな手を使っても海堂を離さない」
愛する者のためなら、何だって出来る。 彼が、俺を愛してくれると言うなら絶対にだ。 戻ったら、彼に伝えよう。
『愛してる』と…………
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