季節の変り目で不健康一家なんである。
Aは寝しなにヒューヒューコンコンと変な咳をして苦しそうだった。 七転八倒しながら、深夜に近い頃、疲れて眠りに落ちた。
そして眠りの浅い真夜中に、がばと起きだし、やけに覚醒した調子で、 なぜ人は地球から落ちないのか、と訊ねてくるのだった。
いつかAにしてやった、人や動物は球体の上に住んでいる、という話を、引っ張り出してきたのだということは、すぐにわかった。
察するに、カラ元気を演出しなければと思いをめぐらせたのだろう。 具合が悪い子どもというのは、妙に変に気を回すものである。
そうした配慮には気付かないふりをするのがよいかなと思い、私も 「それは引力があるから」と真夜中に真顔で答えるのだった。
2004年10月16日(土) 前腕部怪奇譚
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