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2008年01月10日(木) 二人のメロディ。


【はじまりの音:音速パンチ/Cocco】

ついこの間出会ったばかりの彼から、毎日のようにメールが入る。
『おはようございます』から始まって、『おやすみなさい』まで。
それは一日中、途切れることなく続いていく。
彼とは別に、付き合ってるわけじゃないし、凄く仲良しな訳でもなくて。
実際、顔を合わせたところでメールほど饒舌にお互いが語り合う訳でもない。
むしろ面と向かったら、お互いぎこちない。
でもあたしは、憎からず彼を想ってる。
見かけたらちょっとでもそばに行きたいし、構ってもらいたいと思う。
こういうの、なんていうのか・・・・。
あ、そう。
『お気に入り』とか、いい感じ。
昨日の夜も、『お気に入りの君』からメールが入ってた。
たまたま仕事で疲れていたあたしは、それを確認することなく寝入ってしまって。
朝起き抜けに、携帯が点滅しているのでそれを知った。
昨日のあたしの最後のレスに対する返事。
文頭に、『返事が遅くなってすみません。もう寝ているなら、このメールで起こしたらすみません。』と入っているところが彼らしいな、と頬が緩む。
たまにはあたしから、『おはよう』って入れてみてもいいかもな。
でも、こんな時間にメールを送信しているのだもの、まだ寝ているかも。
数瞬悩んで、いいや、メールだもの、起きたりしないだろう、と踏んでメールの作成画面を開く。

「おはよう。起こしたらごめんね(笑) たまにはあたしからのおはようもいいかな〜って思ってメールしてみました☆」

送信のボタンをクリックして、さぁ朝ごはんにしよう、とコーヒーを入れに立ち上がる。
ポットからお湯を注いで、コーヒーをドリップしている時に携帯が鳴った。

『おはようございます!今日はいい日です!!』

朝から元気だなぁ〜、とまた微笑んでしまう。
淹れたてのコーヒーに砂糖だけ溶かして、それをすすりながらまたメール作成画面を開く。

「朝から元気だね(笑) もう起きてたの?早起きだねぇ。なんでいい日なの?お天気いいから??」

送信実行後、今度はトーストを焼く。
トースターの目盛をぐるっと回したあと、目玉焼きを作ろうかどうかちょっとだけ悩む。
また着信。

『いや、メールの受信音であなただって気付いたので飛び起きました!あなたからのメールで始まるなんて、僕にとって今日はとてもいい日です。』

大げさだなぁ、とまた笑っちゃう。
そのままメール作成画面へ。

「大げさだなぁ(笑) 褒めても別になんも出ないよ(笑)」

でもそんなこと言われたら、ちょっとだけ気分がうきうきする。
あたしにとっても今日はきっといい日なはず。
いつもなら面倒で諦める目玉焼きを、今日は焼こうと決める。
こんな日の朝は、ちょっとだけ優雅で贅沢なのが好ましいと思うから。
そうこうしていたらまた鳴る携帯。

《さぁ、ハジマリのキスをして。初めてのキスを。・・・・もう、ここまで来たら躊躇う方が阿呆。》

あたしと彼とはなんでもない関係。
けれどそれは、お互いの意思次第で『どうにでもなれる』関係でもあるということ。


どこかから、始まりの音が聞こえた気がした。


【これからの音:ボクラノLove Story/WaT】

もうすぐ彼女が仕事終わる時間だなぁ、と気付いたので、メールの返信はPCではなく携帯の方にする。

「今日は定時で?」

そのままパソコンに向かう。
別に仕事ではなくて、ただのネットサーフィン。
もう少ししたら新年会の集合時間になるので、それまでの単なる暇潰し。
すると彼女から返信が入る。

『もち!! さびぃ(;´Д`)』

そうか、最近残業続きだったから体調が心配だったけど、今日は定時で帰れたんだな。
よかった。
そう思いながら、返信をする。

「寒いね〜(;´Д`)」

寒さに弱い彼女の体調が心配になる。

『指先がかじかむ。指先が』

やっぱり。
冷え性な彼女だから、今頃指先は氷のように冷たいに違いない。
レス。

「あたためてあげたい(;´Д`)」

本当に思う。
僕がそばにいたら、そっとその手を包み込むのに。

『今日飲み会でしょ(笑)』

そんなことできないでしょ、ってことを暗に示唆する彼女。
そうだよな。
いつだって僕は言葉だけで、実行が伴わない。

「そうやねんなぁ・・・・。ごめん」

せめて気持ちだけでも伝わればいいと思って言葉にする。
でもそれは、無責任なことなんだろうか。

『いいのよ(笑) 楽しんできてね! それにさ、あたしとの世界よりそのほかの世界の方が相対的に大きいんだから、そっちの方をより大事にしないと(笑)』

きっと、僕がこう考えていることなんて、彼女は全てお見通しなんだ。
その上で、僕の気持ちが楽になるような言葉を返してくる。
こんな彼女だからこそ、僕は。

「君を一番大事にするよ」

この気持ちの真意が彼女に伝わることを祈って、僕は送信を実行する。
さ、もう新年会の時間だ。
移動準備を整えながら、僕はそっと考える。

あの日、勇気を持って彼女に『おはようございます』ってメールしてよかったな。
なんでもない関係の頃から、縁が結ばれて、今まで。
たくさんの言葉を送りあってきたけれど。

マフラーから白い息が漏れる。
今日は本当に寒い。
通り抜ける商店街には、彼女が好きなユニットの曲が流れていた。

《もう、離さないよ。今までの、僕とは違うから。》

僕たちのこれから。
一体どうなっていくのかな。


願わくばそのメロディが、心安らかでありますように。


 昨日  記録  明日


狗神史狼 [直訴]

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